ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

みんな、遺伝子の単なる乗り物。『女と男 なぜわかりあえないのか』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。

橘玲さんの『女と男 なぜわかりあえないのか』を読みました。

 

「男性中心主義」社会ではこのことは当たり前すぎて指摘されないが、男女のあいだに誤解を生む大きな要因になっている。男の子は無意識のうちに、女の子も自分と同じように気分が一定していると思っているのだ。

 

 月経周期の“大嵐”

 

 しかし現実には、思春期の女の子の性ホルモンは日々刻々と変化する。それを示したのが図表⑧(略)で、男の子をはるかに上回るとてつもない大嵐のなかに放り込まれることがわかる。
 女性のホルモン・レベルはエストロゲンプロゲステロン(黄体ホルモン)の周期で表わされるが、副腎などから分泌されるテストステロンも影響を与える。
 月経が始まった日を1として、次の生理までの月経周期を4週間(28日)とすれば、1週目と2週目がエストロゲン期、排卵を挟んで3週目と4週目がプロゲステロン期だ。
 エストロゲンには脳を活性化させる効果があり、月経周期の最初の2週間、女の子は穏やかで人づき合いがよくなり、頭脳明晰で記憶力も向上する。 ブリゼンディーンは冗談半分に、「試験や口頭試問を受けるなら月経周期12日目がいい」と女子学生に勧めるという。

 14日目頃に排卵があり、プロゲステロンが主として卵巣から大量に分泌されて、エストロゲンによって活性化された脳を鎮静化させる。その影響で苛立ちがつのり、集中力がなくなって、頭の回転が鈍くなったように感じることがある。
 なぜこのような仕組みになっているかはよくわかっていないが、エストロゲンによって海馬の神経のつながりを成長させ、プロゲステロンでそれを刈り込んで定着させるのではないかとされる。
 さらに大きな変化は月経周期の最後の数日、プロゲステロンが急減したときに起こる。このときはエストロゲンのレベルも低いため、女性の脳には鎮静化作用も活性化作用もはたらかない。それが脳に強いストレスを感じさせ、一時的に動転するのがPMS(月経前症候群)だ。
 多くの女性が、月経が始まる直前は落ち込んですぐ涙が出るし、ストレスを感じて攻撃的になり、ネガティブ思考で敵意がつのり、絶望してうつうつとすると訴える。その期間さえ我慢すればいいという「2日間ルール」はこのつらさを乗り越える知恵で、エストロゲンのレベルがふたたび上昇するとともに不安や絶望感は消えていく。
 女性の場合、テストステロンのレベルも月経周期で変動し、排卵期に最大になる。テストステロンは性欲と関係し、排卵の前後は妊娠確率が高くなるから、この時期に性的関心が強くなるのは自然で、ヒト以外の動物では発情期にあたる。
 ヒトにもっとも近い霊長類であるチンパンジーにも発情期があり、お尻の部分(性皮)がピンク色に腫れあがっていないメスにはオスはなんの関心も示さない。ヒトの性の大きな特徴は、女性の排卵が隠蔽され、いつでもセックスできるようになったことだ。
 月経周期にともなうホルモン・レベルの大きな変動は、現代社会において、女性の日常生活に大きな困難をもたらしている。会社でも学校でも、あるいは家庭ですら、つねに安定した気分でいること(自己コントロール) を要求されるからだ。
 高レベルのテストステロンにさらされながらも、その水準が一定している男性は自己コントロールが比較的容易だ。 それと同じことを女性に求めるのは酷だが、だからといって「月経●日」と表示するわけにもいかず、これはきわめて難しい問題だ。
 女性の脳は、妊娠・出産を通してさらに大きな変化を体験する。俗に「ママ脳」と呼ばれるもので、子どもに強い愛着を持ち、子育てに精力を傾けるようになる。脳の巨大化にともなって、ヒトの子どもは「未熟児」状態で生まれ、出産後も長い育児期間が必要になった。子育てに有用なさまざまな母親の能力は、明らかに進化の適応だ。
 このように、男と女の「人生の体験」はまったくちがう。これがお互いの理解を難しくしていることは間違いない。
 だが逆に考えれば、これは私たちにとって幸運でもある。男女の脳がまったく同じなら、つき合ってもたいして面白くないだろう。 「ちがう」からこそ、さまざまな発見があるのだ。それに更年期になれば、男も女も性ホルモンのレベルが下がってよく似てくる。
 脳の性差がなくなって「平等」になった結果、戦友のようなかたい絆で結ばれるのか、「幸福な夫婦」の仮面がはがれて憎みあうようになるのかは、ひとそれぞれだろうが。


5. 男と女はちがう人生を体験している
(p54)

 

・男性としての人生と、女性としての人生はまったく違う、と考えれば、なるほどお互いの理解が難しく感じるのも納得がいきます。

 

・「月経が始まった日を1として、次の生理までの月経周期を4週間(28日)とすれば、1週目と2週目がエストロゲン期、排卵を挟んで3週目と4週目がプロゲステロン期だ。」

エストロゲンプロゲステロン、全然違う機能のホルモンなのに、よくどっちがどっちなのか分からなくなって混乱するのですが、この考え方はわかりやすいなと思いました。そしてどちらのレベルも低い時、脳がストレスを感じてPMSを引き起こす、というのも理解しやすいです。

 

・更年期を迎えれば、性ホルモンのレベルが下がって似てくる、というのも面白いなと思いました。ご高齢の夫婦が何となく似ていると感じるのは、長い時間を共有してきたからなのかな、と思っていましたが、ホルモンの影響だったんですね。

 

なんの快感もなくても、ひとたび脳の報酬中枢が刺激されると、それを手に入れようといてもたってもいられなくなる。
 これはしばしば「渇き」と表現される。 アルコール依存症の患者は、一杯のストレートウイスキーで「焼けるような渇き」がいやされ、あとはとめどなく飲みつづける。
 だとしたら、「会いたくてたまらない」とか、「気が狂うほど好き」というのも、この禁断症状と同じではないだろうか。
 きびしい生存環境に置かれていても、若い男と女が出会ってはげしい恋に落ち、セックスして子どもを産み育てなければ、その末裔としてのわれわれはこの世界に存在していない。「利己的な遺伝子」は、ヒトに焼けるような恋の情熱を与えたのだ。
 ドラッグやアルコールはせいぜい1万年ほど前につくられたのだから、遺伝子の進化とはほとんど関係ない。それが脳に甚大な影響を及ぼすのは、もっとも原始的な脳の仕組み、すなわち「恋の回路」を化学物質が乗っ取っているからだ。
 恋にはそれ以外にも、さまざまなホルモンが関係する。 図表10は恋愛の科学を研究する第一人者ヘレン・フィッシャーが挙げる「恋愛のホルモン」だ。

 

図表10 恋愛のホルモン

ドーパミン…「情熱的な恋」のホルモン。報酬獲得への衝動に駆られる

ノルアドレナリン…驚きや興奮のホルモン。ドーパミンとともに報酬系を活性化させる

セロトニン…幸福のホルモン。低下すると気分が不安定になる

オキシトシン…愛と信頼のホルモン。恋人や子どもへの愛着を強める。女性に多い

・バソプレッシン…メイトガード(配偶者保護)のホルモン。男性に多い

・テストステロン…性欲のホルモン。男性を支配するが女性でも分泌される

エストロゲン…女性ホルモン。オキシトシンとともに愛着を深める

(ヘレン・フィッシャー『人はなぜ恋に落ちるのか?恋と愛情と性欲の脳科学』 ヴィレッジブックス より)

 

 

 恋の嵐はなぜ終わる?

 

 ドーパミンに次いで重要なのはノルアドレナリンで、驚きや興奮と結びついてやはり依存症の原因となる。
 セロトニンは気分を安定させ、「幸福のホルモン」とも呼ばれる。ドーパミン(ノルアドレナリン)にはセロトニン・レベルを下げる働きがあり、喜びから絶望へとジェットコースターのように気分が変わる。


 オキシトシンは「愛と信頼のホルモン」とも呼ばれる。女性では、オキシトシンはオーガズムや出産、授乳などで) 乳首が刺激されることで分泌され、恋人や子どもへの愛着を強める。
 エストロゲン(女性ホルモン)とドーパミンオキシトシンの組み合わせは、前頭葉の批判的な思考を抑制するらしい。賢いはずの女性がどうしようもない男にひっかかる「恋は盲目」はホルモンの複合作用だ。
 男性は射精(オーガズム)によってバソプレッシンが分泌される。これは「メイトガード(配偶者保護)のホルモン」で、愛する女性を守り、独占したいという強い衝動をもたらす。 恋する男が嫉妬に狂うのはバソプレッシンの影響だ。
 恋愛によってドーパミンが大量に産生される状態は、6カ月から8カ月程度しかつづかない。その後は、オキシトシンやバソプレッシンによる愛情や信頼関係に移っていく。
 なぜこのようになっているかも進化論で説明できる。
 人類の歴史の大半で避妊法などなかったから、恋におちた男女はすぐにセックスして、1年もすれば子どもが生まれただろう。そのときになっても「狂おしい恋の嵐」に翻弄されていたら、子育てなどできるはずはない。恋の情熱は半年程度で冷めるように「設計」されているのだ。
 避妊がきわめてかんたんになった現在では、女性は妊娠の心配をすることなく何度でも恋におちることができる。「恋多き女」の恋愛依存症が、ドラッグやアルコールへの依存とよく似ているのは偶然ではない。
 男も焼けつくような恋の衝動に圧倒されることがあるが、これはテストステロンによって性欲と一体化している。恋人の写真を目にした男性は、ペニスの勃起と関連する脳の部位が活性化する。男はみんな「セックス依存症」なのだ。

 

7. 恋愛はドラッグの禁断症状と同じ?
(p66)

 

どこかで耳にしたことのあるホルモンの名称が続きますが、恋愛のホルモンに限ってみても、いろいろな感情を引き起こしていることが分かります。

「恋愛によってドーパミンが大量に産生される状態は、6カ月から8カ月程度しかつづかない。」にびっくりしました。恋の情熱、醒めるの早!でもそれも、子育てのために設計されている機能だったんですね。

道理で、報酬を獲得したらあっという間に冷めちゃうはずです。

 

 男が〝一発逆転〟を狙うというのは進化論による説明と整合的だが、「勝てると思えば女の方がリスクを取る」ことまでは予想できなかった。 データでは、主観的な当選確率が20%を超えると女の野心は男性を上回るのだ。
 ここからわかるのは、女は男より競争に消極的なのではなく、「勝率を冷静に計算している」らしいことだ。成功の見込みが高いと思えば、女は男より冒険的になる。「女性は戦略的に競争に参加するかどうかを考え、きわめて慎重に行動している」のだ。
 競争には負けるリスクがある。多くの時間、金、感情を投資するほど、負けたときに失うものも多くなる。このリスクを女の方が正確に判断できるとすれば、「損することがわかっている」勝負を嫌うのも当然だ。
 ジェンダーギャップ指数が世界最底辺の日本では、国会はまだマシで、地方議会には女性議員ゼロのところも多い。 ”重鎮"などと呼ばれる男の政治家は「選挙に出ようとする女性がいない」と開き直るが、問題はこの「おっさん」たちが自分の議席にしがみついていることにある。当選確率が低ければ(現職議員を破るのは難しい)、リスクに敏感な女性は出馬を尻込みするだろう。
 だとしたら、フランスなどのように女性に一定の議員数を割り当てるクオータ制にも一考の余地がある。女は男よりずっと「合理的」なのだから、制度的に当選確率を上げれば「政治的野心」が高まって、優秀な女性候補者が続々と現われるだろう。

 

26.女は合理的にリスクをとる
(p200)

 

この議員数の話はとても興味深いです。

なぜ「選挙に出ようとする女性がいない」のかは、勝率が見えているから。これは、男性の視点だけでは考え付きもしないのかもしれません。

 

 ヒトの性がどれほど多様だとしても、突き詰めれば、脳の快楽中枢が刺激されるかどうかの話になる。 マゾヒストは辱められることで快感を得るが、これは屈辱を感じたときに興奮する脳の部位が性的快感の領域と重なっているからだ。SM愛好家が珍しくないことを考えると、こうした「混線」はよくあることらしい。

 

 脳の「誤読」


 性の研究では、困惑するような事例がいくつも報告されている。たとえば、ナチス強制収容所で両親を亡くしたある女性は、親衛隊の将校たちに全裸にされ、犯される夢想で「最高のオーガズム」を感じていた。
 いかにもフロイトが喜びそうな話だが、これも同じく「脳の混線」で説明できる。不道徳なことをすると緊張で心臓がどきどきするが、この女性の場合は、なにかの偶然で、この心拍数の上昇を脳が性的興奮のサインと「誤読」しているのだ。そうなると、大きな性的快感を得るにはできるだけ不道徳な夢想をすればいいことになる。
 フェティシズムは、女性の足やうなじ、耳など特定の部位に強烈な性的興奮を感じることだ。男の場合、思春期にテストステロン(男性ホルモン)が急上昇して、異性に強い性的関心を抱くように「設計」されている。このとき、たまたま強いエロスを感じた対象(女子生徒のスカートから伸びている美しい足、とか)があると、それが性的に刷り込まれる。
 この「刷り込み説」はあまりに単純だと思うかもしれないが、フェティシズムの対象は思春期までに固定し、その後は変わらないことがわかっている (30代や40代になっていきなり”足フェチ"になることはない)。
 「性的刷り込み」は、もっとずっと早い時期に起こるとの説もある。 男子の4歳から9歳までは 「敏感期」 で、そこでエロスを感じた対象が脳に記憶される。それが思春期の男性ホルモンの洪水によって喚起されるというのだ。
 いったんエロスの標的がロックされると、脳の報酬系はそれをひたすら追い求めるようになる。 パラフィリア(性倒錯)とは、エロスの対象が社会的に認められているものから大きくずれてしまうことだ。
 パラフィリアの男女比は (ゲイも含め)、99対1とされる。これは女性の方が性的に柔軟で、成長とともにエロスの対象を修正できるからのようだ。
 依存症というのは、アルコールやドラッグ、ギャンブルなど、社会的にも本人の人生にもマイナスにしかならないことに脳の報酬系が囚われてしまうことをいう。そのメカニズムはパラフィリアも同じで、「性依存症」という報酬系のトラブルだ。
 マゾヒズムフェティシズムは、パートナーとの同意のうえで楽しむのなら本人の自由だが、窃触障害 (ちかん) や窃視障害 (盗撮)になると深刻な問題を引き起こす。小児性犯罪は、もはや存在そのものが許されなくなりつつある。だが「刷り込み説」によれば、これはたまたま思春期(あるいは敏感期)に「不適切なエロス」が脳に刻み込まれた不運に端を発していることになる。
 現代社会では、インターネットなどに大量のエロスが溢れている。そんな環境で育った男の子たちがどのような性的嗜好を持つようになるのかは、これから徐々に明らかになってくるだろう。
 「利己的な遺伝子」は自らの遺伝子を最大化するよう「ヴィークル(乗り物)」であるヒトを設計したのだから、性愛への欲望はとてつもなく強力だ。その意味では、男は全員が「性依存症」ともいえる。パラフィリアにならなかったとしたら、たんに幸運だったのだろう。
 ここまで述べてきたように、テストステロンのレベルが低い女は、男のような強い性欲を持っていないが、その代わり「愛されたい」という欲望を埋め込まれている。
 ということで、「男は強すぎる性欲に苦しみ、女は強すぎる共感力に苦しむ」というのが (とりあえずの) 結論になった。 明るい話でなくて申し訳ないが。

 

32.”触れてはいけない”性愛のタブー
(p240)

 

・「フェティシズムの対象は思春期までに固定」というのが意外でした。しかも、「4歳から9歳までは 「敏感期」 で、そこでエロスを感じた対象が脳に記憶される。それが思春期の男性ホルモンの洪水によって喚起される」というのもすごい。成長するにつれて多くの人と関わることで、自分の好みは形成されるような気がしていましたが、そんな悠長な世界ではなかったんですね。

自らの遺伝子を残すために、意思でコントロールできないようにされていると思えば、ヒトは単なる遺伝子の乗り物だということもすんなり受け入れられるように思います。かといって、本能の赴くままに行動するのも許容できない場合もありますが。

・女性は「成長とともにエロスの対象を修正できる」というのも逆に柔軟すぎて怖い。

 

生理の本を読んだ後だったので、ホルモンの話は特に理解が深まりました。

お互いがこんなに違うのでは、分かりあえなくて当然じゃん、という気持ちになってきます。

だからこそ、気持ちが通うと嬉しいんだな、ということも分かります。

異性の気持ちが分からなくなったとき、ただ感情的に衝突するのではなく、まったく違う人生の中にいるんだ、と思うと、少し俯瞰的に見られるかもしれないな、という気がしてきました。

 

自分が今の人生の記憶を何も引き継がずに次は男性として生まれたら、またこの本読んだほうがいいよと教えてあげたい。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。