ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

対岸の火事ではない。『第三次世界大戦 日本はこうなる』を読んで 

こんばんは、ゆまコロです。

 

池上彰さんの『第三次世界大戦 日本はこうなる』を読みました。

 

 第一次世界大戦第二次世界大戦も、初めから「世界大戦になる」と考えられていたわけではありません。想定外の出来事が相次ぎ、気が付いたら世界大戦に発展していたというわけです。
 ロシア軍によるウクライナ侵攻は、いまのところは戦場がウクライナに限定されていますが、これからどうなるかわかりません。ウクライナにしてみれば、ロシアに奪われた領土を奪還するのは「正義の戦い」です。しかし、その戦いがクリミア半島奪還に向けて進展すると、ロシアにとっては「2014年にようやく取り戻すことができた領土がウクライナによって奪われてしまう」という思いになります。今度はロシアが「領土死守」というスローガンを掲げやすくなります。
ウクライナ周辺の各国も気になります。かつてウクライナの一部が自国の領土だったポーランドは、ウクライナでの戦いを我がことのように受け止めて支援を惜しみません。しかし、ロシアにしてみれば、「自国の戦争にポーランドが介入した」と受け止めるかもしれません。
 あるいは、ベラルーシはどう動くのか。モルドバは……と視野を広げていくと、紛争の種はあちこちにくすぶっています。かつてのソ連圏だったアルメニアアゼルバイジャンの紛争も再燃しています。両国は、ソ連崩壊前後から紛争が続き、ロシア軍が重しになることで紛争が抑止されていましたが、ロシアの力が弱まったことで緊張が高まりました。
 日本にとって気になるのは、中国と北朝鮮の動向です。中国の習近平国家主席は、台湾を併合したいと熱意を燃やしています。中国共産党総書記として異例の三期目に突入し、独裁体制を確立しました。もし習近平が台湾侵攻を命じても、国内でブレーキをかける勢力は存在しないのです。
 いま中国は、ウクライナでの戦況を注視しています。ウクライナを支援する国がどれだけあり、どれだけ経済制裁が実施されるのか見定めています。将来、台湾に軍事侵攻したときに、世界がどんな反応を示すか知っておきたいからです。
 果たして中国は台湾侵攻に踏み切るのか。中国建国の父・毛沢東には有名な言葉があります。「権力は銃口から生まれる」。つまり軍事力があってこそ権力を掌握できるという意味です。習近平は、この言葉をどう受け止めているのでしょうか。
 しかし、軍事侵攻すれば、世界の反発を買い、経済は大打撃を受けます。それを考えれば、いまの習近平の戦略は「孫子の兵法」である「戦わずして勝つ」ということでしょう。今後も台湾に対して硬軟両様のアプローチをかけ、台湾が共産党に親近感を抱く国民党政権に交代するのを待つ方針を取るでしょう。
(p10)

 

第一次世界大戦第二次世界大戦も、初めから「世界大戦になる」と考えられていたわけではありません。想定外の出来事が相次ぎ、気が付いたら世界大戦に発展していたというわけです。」

なぜ二度も世界大戦が起こってしまったのだろうかと、学生の頃は不思議に思っていました。しかし当時その時代を生きていた人たちも、世界大戦になるだろうなという予測をしていなかった、と聞くと、気がついたら戦争になっていた、といった事態も、ありえなくはないなと思えてきます。本書を読み進めると、特にそう思わされます。

 

 ロシアのウクライナ侵攻でさらに過激に!

 

 このようにますます過激になっている北朝鮮ですが、実はウクライナ問題とも大きく関係しています。
 ロシアがウクライナに侵攻するのを見た北朝鮮は、こんなふうに考えたのではないでしょうか。
「やっぱり核兵器は手放せない」
 そう推測するのには理由があります。
 ウクライナが一時期、アメリカ、ロシアに次ぐ世界3位の核保有国、核大国だったことはご存じですか。
 東西冷戦の頃、ウクライナはロシアと共にソ連を構成する15の共和国の一つでした。このソ連時代にウクライナには大量の核兵器が配備されました。狙いは西欧諸国への対抗です。ソ連の指導者たちは、地理的に西ヨーロッパに近いウクライナに軍隊や核を配備することで、西欧諸国と対決する姿勢を明確にしたのです。

 ところが1991年、ウクライナに核を残したまま、ソ連が消滅してしまいました。
ソ連内のそれぞれの国が独立したためです。結果として、ウクライナは世界3位の核保有国となりました。
 ちなみに、当時のウクライナ保有していた核弾頭数は1240発だったといわれています。
 しかし、ウクライナは結局、核兵器を放棄することにしました。そのことを約束したのが1994年の「ブダペスト覚書」です。ハンガリーの首都ブダペストで署名されたのでこう呼ばれています。
 具体的には、ウクライナ核兵器を放棄し、その全てをロシアに引き渡せば、ウクライナ領土の安全と独立国家としての主権をアメリカ、イギリス、ロシアの3カ国で保障するというものです。
 東西冷戦が終わり、既にロシアは民主化されていました。そのままロシアに自由と民主主義が定着していれば、この覚書が破られることはなかったかもしれません。しかしその期待は打ち砕かれ、約束を無視してロシアはウクライナに侵攻。アメリカやイギリスは直接的な軍事介入を避け、ウクライナに武器は提供するけれども、軍隊は送りませんでした。つまり、ブダペスト覚書は反故にされたのです。
 そんな様子を見た北朝鮮は、一連の出来事から教訓を引き出しました。
ウクライナが侵略されたのは核を放棄したからだ。核兵器を持っていれば、ロシアが攻め込むことはなかったのではないか。またアメリカやイギリスがロシアを攻撃しないのは、ロシアが核保有国で核戦争になるのが怖いからだ。だとしたら核兵器さえ持っていれば北朝鮮の安全を守ることができる。よって核は手放せない」
 金正恩総書記はこう考えているのではないか、とみることができます。
(p60)

 

ソ連から独立したことでウクライナが世界有数の核保有国となっていた時期があったことを、本書で初めて知りました。被爆国にいると「核兵器さえ持っていれば安全」という発想はなかなか出てきませんが、北朝鮮が核を手放せないという考えに至るのもまた、理解できなくもないかもしれません。

 

 ロシアを強く非難できないインド

 

 ロシアへの経済制裁を行っていない国の一つにインドがあります。インドは侵攻直後に行われた国連でのロシア非難決議(2022年3月)も棄権しました。
 なぜインドはロシアに毅然とした態度をとらないのでしょうか。これには歴史的な背景があります。

 アメリカとソ連が対立していた東西冷戦さなかの1950年代、インドの製品は質が悪く、輸出ができなくて経済はボロボロ。そんなインドを救ったのがソ連でした。インドはソ連の経済援助のおかげで発展できたともいわれているのです。
 そういうソ連あるいはロシアに対するお礼の気持ち、自分たちの国がここまで発展できたのはロシアのおかげだという思いがあるのと、ロシアとは1993年に友好協力条約を結んでいて軍事面で大切なパートナーだということがあります。
 インドの近くに、インドともめている国が2カ国あります。パキスタンと中国ですね。インドはどちらとも戦争したことがあります。とにかく国境や領土をめぐって争いが絶えない。常に緊張状態にあり、最近もインドと中国が軍隊同士で衝突して、インド兵が死亡しました。
 インドとしては、対立する中国を背後からソ連(ロシア)に牽制してもらいたい。そこで冷戦時代に中国と仲の悪かったソ連に接近し、その時築いた関係がずっと続いているわけです。
 さらに、パキスタンとまた戦争になるかもしれないということで、ロシア製の安い兵器を大量に買っています。インド軍の兵器の約6割がロシア製というデータもあります(出典:ストックホルム国際平和研究所)。アメリカ製は値段が高いのがネックになっているようです。
 そうやってロシア製の兵器を大量に買っていると、ロシアとは喧嘩したくないという気持ちになるのは自然の成り行きです。
 結局、インドとしては、自分の国を守るためにもロシアとは良好な関係を維持したいと考えているのです。
 しかし、インドはQUADの重要な一画を占める国です。 QUADに参加している以上、日米豪と足並みを揃えて対ロ制裁に参加すべきと思うのですが、インドの考えは違っていました。
 アメリカはインドに、武器も原油も支援するからロシアへの制裁を考えるよう求めました。これに対してインドのモディ首相はこう言っています。
「世界が二つのブロックに分かれている時、インドは人類に対して独立した立場をとり国益を優先していく」
 要するに、インド・ファーストなんですね。 対中包囲網という点ではインドは頼もしい存在ですが、ロシアに対しては及び腰です。その根底にはインド・ファーストの方針があるということです。

(p144)


今までインドを力強くサポートしてきてくれたロシアに冷たくできない、という事情がよくわかりました。

5/20にG7サミットで来日したゼレンスキー氏は、インド首脳らとさっそく会談していましたが、これからどうなるのか気になるところです。

 

www.yomiuri.co.jp

 

(…)「あらゆる手段」という言葉で核兵器の使用をほのめかし、「これは脅しではない」と典型的な脅し文句を付け加えています。また、 核兵器で脅されたときは同じことをするとも発言しました。
 要するに、ロシアの領土が攻撃されたら核兵器を使うこともありえるし、もし欧米側が核兵器を使えば、それに対しては核兵器で報復すると示唆したわけです。


 一歩間違えば第三次世界大戦に発展!

 

 さらに危険な動きが立て続けに起きました。9月下旬、東部ルハンシク州とドネツク州、南部ザポリージャ州とヘルソン州の合計4州で「ロシアへの編入を問う住民投票」が行われ、圧倒的多数の賛成で承認されたと発表しました。
 これを受けたプーチン大統領は、9月30日に4州のロシアへの併合を発表。 ウクライナ東部・南部一帯を一方的にロシアの領土にしてしまったのです。

 4州はロシア軍が完全に掌握しているわけではなく、ウクライナ側が支配している地域やウクライナ軍が奪還した地域もあります。しかし、ロシアが併合を宣言したのは4州の境界線の内側全てです。 他国の土地を併合するのはもちろん国際法違反ですが、未占領地域まで自分たちのものだと言う神経の図太さに、多くの人は唖然としたのではないでしょうか。

 ウクライナ政府は猛反発し、バイデン大統領もロシアを非難、国連のグテーレス事務総長も「国連の目的と原則に背く行為で、危険なエスカレーションである。現代社会にはふさわしくないし、決して容認してはならない」 とロシアを厳しく批判しました。
 こうしたロシアの強引な行為により、ウクライナ情勢をめぐって国際社会は一気に緊迫の度を増しています。
 既にウクライナ軍は、ロシアが併合したと称する東部・南部の4州内に兵を進めています。 戦いは4州内でも行われており、プーチン大統領の言葉を額面通りにとれば、「ロシアの領土の一体性」が脅かされていることになります。
 かねてよりロシアは、「通常兵器による攻撃であっても、国家の存立が危険にさらされた場合は核兵器を使うことができる」としており、プーチン大統領核兵器を使うかもしれないという心配が急速に高まっています。
 戦略核兵器のような巨大な破壊力を持つ核をいきなり使うことはないと思いますが、戦術核兵器と呼ばれる小型で小規模な核兵器を使うことは、あり得ないことではありません。
 しかし、万が一そんなことになった場合、アメリカやNATOがどう出るかです。これまでのように、戦闘はウクライナ軍に任せて、背後から武器支援するというやり方を続けるわけにはいかなくなるでしょう。
 アメリカが直接、軍事介入する可能性が出てきます。そしてロシア軍とアメリカ軍が直接交戦することになれば、NATO加盟国はアメリカ側に立ってアメリカと一緒にロシアと戦うはずです。

 これはもう後戻りのできない戦争、 すなわち第三次世界大戦の勃発です。ロシアはベラルーシカザフスタンなど6カ国でCSTOという軍事同盟を結んでおり、それらの国々はロシアと共同歩調を取る可能性もありますが、こちらは加盟各国がロシア離れの姿勢を示しているので、どういう行動をとるか現時点では不明です。
 北朝鮮は否定していますが、砲弾不足に苦しむロシアに北朝鮮が大量の砲弾を提供したという情報もあります。
 ロシアと軍事的に緊密な関係にある北朝鮮、そして軍事大国中国の動きも気になるところです。

(p154)

 

いまだに多くの国が核兵器保有する現代で、もしそれが使われたらどうなるのだろう、と漠然と不安に思っていましたが、ちょっとしたきっかけで大きな戦争になる可能性は十分あることが分かります。

 

 実は安保理で物事を決める仕組みには問題があり、今回、その問題がクローズアップされることになりました。


 ウクライナ侵攻を止められない理由

 

 平和を守るはずなのに戦争を止められないなんておかしいですね。でも、その理由は仕組みを見ればよくわかります。
 193カ国で話し合っていたらなかなか話がまとまらないので、15カ国から成る安保理が全加盟国を代表して物事を決定します。
 この15カ国は、さらにこんなふうに分かれています。
 常任理事国という5ヵ国と非常任理事国の10カ国です。 常任理事国が常に固定された同じメンバーなのに対し、非常任理事国は任期2年で地域別に選挙で選ばれます。
 日本は直近の選挙で非常任理事国に12回目の当選を果たし、2023年1月1日から安保理で仕事を始めました。12回目というのは、非常任理事国の中では日本が最多です。
 問題は常任理事国です。5カ国にだけとても大きな特権が与えられています。 それが、いわゆる拒否権です。安保理決議案を採択するときは、原則15カ国のうち9カ国以上の賛成があれば通るのですが、常任理事国5カ国のうち1ヵ国でも「ノー」と言えば通らない仕組みになっています。
 たとえ14カ国がやろうと言っても、常任理事国が1カ国でも反対したら採択できない。そんな強い力を持っているのが「5大国」と呼ばれる国々です。
 アメリカ、イギリス、フランス、 ロシア、中国の5カ国です。
 今回、常任理事国のロシアが他国を侵略するという暴挙を行いました。安保理ではそのロシアが拒否権を使ってくるため、ほとんど何も決まらない状態が続いています。それでウクライナ侵攻を止めることができないのです。
 日本や欧米はロシアに対して経済制裁をしていますが、これはあくまで自主的なもの。 安保理で決めて全加盟国に命じるのが本来のルールです。 しかし安保理の機能不全でそれができません。そこで各国がそれぞれの判断で制裁を行うかどうか決めています。
 ロシアへの経済制裁は国連が決めたものではなく、そのため経済制裁していない国の方が多いのです。
 国際社会で暴挙を繰り返しているのはロシアだけではないですよね。 北朝鮮も核・ミサイル開発を推し進めてきました。 ウクライナ侵攻後もミサイルを連発する北朝鮮に対してもっと厳しい経済制裁をしようという提案には、ロシアと中国が拒否権を使って反対を表明。こうなると手の打ちようがありません。
「平和を守ると言いながら何もできないではないか。国連は無力だ」と批判の声が高まっています。

 

 特別な「5大国」はどうやって決まった?

 

 ここで疑問が浮かびます。なぜこの5カ国だけ特別なのでしょうか?
 第二次世界大戦戦勝国だから。これがその理由です。

 そもそも国際連合第二次世界大戦に勝利した国によって作られた組織です。戦争で勝った国の中心メンバーで、当時の大国がこの5ヵ国だったことから常任理事国に選ばれました。
 第二次世界大戦は、今からおよそ80年前、枢軸国と連合国と呼ばれた国々の間で戦われた戦争です。日本やドイツなど枢軸国が敗北し、アメリカ、イギリス、ソ連など連合国が勝利。勝った側の連合国が「我々が戦後の平和を守ろう!」と言って作ったのが国際連合(国連)です。
 国際連合を英語にするとUnited Nationsです。しかしUnited Nationsを 「国際連合」と訳すのは日本だけと言ってもいいでしょう。これは日本独特の訳し方で、直訳すれば「連合国」にもなります。
 United Nations (連合国)が作ったのがUnited Nations (国連)。戦争に勝った連合国がそのままの名前で作った組織が今の国連です。
 日本は1956年12月に国連に加盟しました。 国連に入るとき、日本が戦争で戦った相手の「連合国」に入るのでは国民に説明しにくいということで、訳語を変えることになり、これを「国際連合」と読み替えたのです。
 ところで、アメリカとソ連は敵対関係にあるというイメージが強いのに、なぜ揃って常任理事国になれたのだろうと不思議に思うかもしれません。
 確かに戦後は東西冷戦で長く対立しましたが、第二次世界大戦の時は協力し合う関係だったからです。 当時仲が良かったのは、米ソ両国にとって共通の敵ドイツがいたからです。ソ連はドイツに攻め込まれて甚大な被害を出しながら戦い、そのソ連アメリカは全面的に支援して協力関係にありました。
 第二次世界大戦で最も多くの犠牲者を出したのはソ連です。その数、約2700万人。これほどまでに多くの犠牲を払ってドイツに勝ち、戦争を終わらせた。その功績が認められてソ連常任理事国入りしました。
 でも、一部の国を特別扱いして拒否権を認めたら、話し合いがまとまらなくなるのは目に見えています。なぜそんな仕組みにしたのでしょうか。

 

 拒否権がある限り国連の機能不全は続く?

 

 国連を立ち上げるとき、拒否権という考え方が最初からあったわけではありません。ソ連が強く要求して作ったといわれています。
 当時の中国は中華民国、現在の台湾ですから、社会主義ではありませんでした。そうすると、5ヵ国の中でソ連だけが社会主義の国ということになります。アメリカやイギリスなどから見て社会主義国は極めて異質な存在です。それはソ連も自覚していて、何か物事を決めるときにソ連だけ孤立するのではないかと恐れました。ソ連に不利なことを決められたら困ると考えて、ソ連が「拒否権を作れ」と強く要求したというのです。
 この拒否権があるために、ロシアのウクライナ侵攻も北朝鮮の核・ミサイル開発も止められない現実があります。国連ができてもう80年近く。そろそろ何とかならないものでしょうか。
 多くの国が何とかしなければと思っているのに変えられないのは、変えるためのハードルが高すぎるからです。
 拒否権をなくそう、あるいは常任理事国を増やそうという提案をしても、そのためには国連憲章という国連にとっての憲法のようなものがあり、それを改正する必要があります。
国連憲章の改正は、総会を構成する国の3分の2の多数で採択され、かつ、安全保障理事会の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准されて可能となる」(出典:国連広報センター)
 このように、国連憲章を改正するには5常任理事国も含めて加盟国の3分の2以上の賛成が必要なので、常任理事国が1カ国でも「嫌だよ」と拒否権を発動すると改正できないのです。

 拒否権を持つ常任理事国にしてみれば、拒否権がなくなれば自分たちが不利になるので、そんな改革には絶対賛成しないでしょう。
 結局、拒否権はなくならない。なくならないから争いを止められない。国連の機能不全が続く、というわけです。

 

 日本の常任理事国入りは簡単ではない

 

 2022年5月23日、訪日したアメリカのバイデン大統領は日本の常任理事国入りを支持すると発言しました。
 しかしこれは、アメリカの後押しがあれば実現するというものではなく、現実にはなかなか難しい問題です。以前から「常任理事国を増やそう。日本なども加えよう」という議論はあるのですが、反対する国があって進んでいないのです。
 国連の機能不全は今に始まった問題ではありません。戦後から1980年代末にかけての東西冷戦時代は、アメリカとソ連が対立していたので、国際紛争が起きると必ずどちらかの国が拒否権を発動していました。
 どこかで紛争が起きれば、大抵の場合、アメリカとソ連の代理戦争のようになります。アメリカがそれをやめさせようとするとソ連が拒否権を発動し、アメリカも結構な頻度で拒否権を発動しました。
 結果的に、東西冷戦時代の国連は何も決められず、「国連には何も期待できない」と言われたものです。ところが東西冷戦が終わった途端、「お互い協力し合いましょう」ということになって、近年は国連が役に立つ場面が増えてきました。
 それが今回、ロシアのウクライナ侵攻で元の無力な国連に戻ってしまい、世界の人々の間で不満が高まる結果となっています。
 ここまできたら、いっそのことロシアを国連から追放すればいいのにと思う人もいるでしょう。
 国連憲章には「除名」の規定があり、できないことはありません。ロシアを追放するには、国連総会で決議をして3分の2以上の賛成があれば可能です。
 ただ、国際社会にはロシアの仲間、中国の仲間もいるわけで、ロシア追放の決議案を国連総会に出したところで3分の2以上の賛成票を得るのは非常に難しい。逆に、追放してロシアが国連からいなくなってしまったら、どこがロシアに対して働きかけを行うのかということになってしまいます。ロシアに圧力をかけ続けていく上では、むしろ国連の中にとどまってもらったほうがいいのです。


 現実味を帯びてきた第三次世界大戦の危機

 

 国連が機能不全に陥っている今、第三次世界大戦の可能性はかつてなく高まっています。ロシアがこのまま暴走を続けた場合、国連にこれを止める力はなく、最後は武力対武力で決着をつけるしかなくなるからです。
 これまで何度も核兵器の使用をちらつかせてきたのがプーチン大統領です。ロシアは2014年にクリミアを占領し、2022年にはウクライナ東部・南部の4州を併合。いずれもウクライナや国際社会は認めておらず、不法な併合です。しかし、プーチン大統領は自分たちの領土への攻撃があった場合は核兵器を使うかもしれないと示唆し、「これは脅しではない」とまで言い切りました。
 実際、2022年10月にロシア本土とクリミア半島をつなぐクリミア大橋が何者かによって破壊されると、ロシアはこれをウクライナによるテロと断定し、直後にウクライナ全土への無差別なミサイル攻撃を始め、多くの無辜の市民を殺傷しています。
 それでもウクライナ軍はひるむことなく進軍を続け、11月には南部ヘルソン州の州都ヘルソンを奪還しました。これによりロシア軍はドニプロ川東岸へ撤退を余儀なくされたのですが、一方でロシア軍によるウクライナ全土へのミサイル攻撃は激しさを増し、発電所などエネルギー関連施設が次々に破壊されました。
 ウクライナの冬は寒く、電気がなければ人々は暮らしていけません。ロシアは、ウクライナの電力インフラを破壊して人々が寒さに震える状態を作り出し、戦う意欲を失わせて、ウクライナを降伏させようと考えたようです。
 そうした中で起きたのが11月15日の事件です。ポーランド東部のウクライナとの国境近くの町にミサイルが着弾し、民間人2人が死亡。一気に緊張が高まりました。もしこれがロシア軍の意図的な攻撃であれば、ロシアはNATO加盟国を攻撃したことになり、戦争の性格が一変する可能性があったからです。
 このミサイル着弾に関しては、当初、どの国が撃ったのかはっきりせず、見解が錯綜していました。
(p170)

 

平和と安全を維持することが国連の役割なのに、なにかロシアに働きかけることはできないのかなと思っていましたが、この常任理事国の拒否権が、機能不全の原因だったのですね。

このあたり、学校で習ったような気がしますが、完全に忘れています。

自国にとって都合の悪い議案が出るたびに拒否権を発動していたら、そりゃなにも決まらないですよね。

 

TVで観る池上さんの語りそのまま本にしたような感じで、席に座って授業を受けているような気分になります。こちらが疑問に感じそうなところは、たいてい細かに説明してくださっているのもありがたい。

 

この本を読んで割とすぐに、ウクライナの様子を映したイマジン・ドラゴンズのミュージックビデオを見ました。

 

ゼレンスキー大統領も平和公園でのスピーチで「ウクライナの街は原爆資料館でみた風景と似ている」と言っていましたが、この映像に登場する、自分の街が何ヶ月も爆撃にさらされているサシャ少年を見ていると、日本人にも第二次世界大戦で自分の国が同じように戦火の只中にあったことが想起されます。

 

www.youtube.com

 

「ロシアがこのまま暴走を続けた場合、国連にこれを止める力はなく、最後は武力対武力で決着をつけるしかなくなるからです。」

と池上さんは書いていますが、自国が戦場となることは、歴史上や遠く離れた国で起こっている話ではなく、気がついたときには現実として目の前にあることなのかもな、と重く心にのしかかりました。とても他人事としては考えられない気持ちになります。

 

これ以上の武力のぶつかりあいとなることなく、平和な日常が戻ってきますように。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。