ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

走らない理由なんかない。『運動脳』を読んで

こんにちは、ゆまコロです。

 

テニスを始めて今年で10年になります。

以前は運動に関する本など見向きもしませんでしたが、テニスがうまくなりたい、元気な体を手に入れたい一心で、スポーツに関する話題に興味が湧いてきました。

そんな中で気になっていたアンデシュ・ハンセンさん、御舩由美子さん(訳)の『運動脳』をようやく読みました。

 

    運動でストレス物質「コルチゾール」をコントロール


    ストレスにうまく対処するのに、コルチゾールが脳におよぼす影響を減らすことが有効なのは間違いない。
    ここで、いよいよ運動の出番だ。 あなたがランニング、あるいはサイクリングなどの運動をすると、それを続けている間はコルチゾールの分泌量が増える。なぜなら肉体に負荷がかかる活動は一種のストレスだからだ。
    筋肉を適切に動かすためには、より多くのエネルギーや酸素が必要なので、血流を増やそうとして心臓の鼓動は激しくなる。そして心拍数と血圧が上昇する。この場合のコルチゾールの働きは正常であり、身体を動かすために必要な反応だ。
    しかし運動が終われば、身体はもうストレス反応を必要としないので、コルチゾールの分泌量は減り、さらにランニングを始める前のレベルにまで下がっていく。ランニングを習慣づけると、走っているときのコルチゾールの分泌量は次第に増えにくくなり、走り終えたときに下がる量は逆に増えていく。
    さあ、ここからがおもしろいところだ。
    定期的に運動を続けていると、運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていく。 運動によるものでも仕事に関わるものでも、ストレスに対する反応は、身体が運動によって鍛えられるにしたがって徐々に抑えられていくのだ。
    つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないように身体をしつけるのである。単に運動をしたために「全般的にいくらか気分がよくなっている」だけでなく、身体を活発に動かしたことでストレスに対する抵抗力が高まるのである。

(p72)

 

この本が面白いと思ったのは、イライラがどこから来て、体はどのようにその感情に対応するのか、ということを提示し、さらにそのストレスを克服する方法としてどのようなものがあるのか、を教えてくれているところです。

コルチゾールはストレスホルモンとして何となく知っていましたが、過剰に増やさないようにする方法があることは初めて知りました。

コルチゾールが過剰分泌されると、免疫力の低下、脂肪がつきやすくなるなどの症状が起こるらしいので、これを知っただけでも運動したくなってきます。

 

    じつは、うつ病の症状を最終的に取り除いてくれるものは、この「別の何か」だ。近年、神経科学の分野の研究者たちは、この奇跡ともいうべき物質にますます注目している。 「BDNF (脳由来神経栄養因子)」だ。これこそ、この章の主役、脳内最強とも呼べる物質である。
    BDNFは、主に大脳皮質(脳の外層部)や海馬で合成されるタンパク質だ。医学の研究者たるもの、奇跡の物質なる言葉をむやみに使うことは慎むべきだが、このBDNFはその言葉に充分に値するほど、脳に計り知れないほどのすばらしい恩恵を与えてくれる物質である。

 

    意欲減退を防ぐ、科学が「奇跡」と呼ぶ物質

 

    BDNFは、脳細胞がほかの物質によって傷ついたり死んだりしないように保護している。
    通常なら、酸素やブドウ糖を取り込めなかったり、有害な物質の攻撃を受けたりすると、脳細胞が損傷するか壊死してしまう。だが、その前にBDNFを受け取っていれば、そういった損害を避けられるのだ。
    脳は、たとえば脳卒中や頭部を強打するなどして損傷を受けると、みずからを守るためにBDNFを放出するといわれている。BDNFは脳の損害を最小限に抑えるための、いわば救助隊だ。その働きは、白血球が細菌と戦うために抗体をつくることや、血小板が凝固して傷口を止血することによく似ている。

   

    このように、様々な場面でBDNFは脳細胞を守っている。だが、BDNFの仕事はそれだけではない。新たに生まれた細胞を助け、初期段階にある細胞の生存や成長を促す役目も果たしている。また脳の細胞間のつながりを強化し、学習や記憶の力を高めている。さらには、脳の可塑性を促して細胞の老化を遅らせる働きもしている。
    このほかにも挙げればきりがないほどのメリットがある。要するにBDNFは、脳の天然肥料なのだ。
    大人でも子どもでも、また高齢でも、BDNFは脳の健康にとって欠かせない物質である。

 

    それが、うつ病とどう関係するのだろうか。
    じつはBDNFは、うつ病とも密接に関わっている。うつ病を患っている人は、BDNFの分泌量が低い。実際に、自殺した人の脳を調べるとBDNFの値が低いことがわかる。
    うつ病の人が抗うつ剤を服用すると、BDNFの濃度は上がる。うつ状態から回復して精神状態が安定するにつれ、BDNFがつくられる量も増えていく。
    それだけではない。BDNFの値は、単にうつ病と関わっているだけでなく、私たちの人格形成にも影響をおよぼしている。実際に、神経症の患者はBDNFの値が低い傾向にあるといわれているのだ。

 

 BDNF生成に運動ほど効果的なものはない

 

    さて、ここで問題である。いったいどうすれば、この奇跡の物質を増やせるのだろうか。
    錠剤にして飲めばいい? 残念ながら答えは「ノー」だ。口から入れても胃酸で溶けてしまう。それに、たとえ胃酸から保護できたとしても、血液脳関門という脳のバリアを通過するのは難しい。
    また、BDNFをじかに血管に注射しても同じだ。血液脳関門を通れないため、脳に到達できない。頭蓋骨にドリルで穴を開け、そこから脳に注入することは理論上は可能だが、実際に行うには無理がある。
  ところが、BDNFを増やせるごく自然な方法がある。それは さあ、ドラムロールをどうぞ—運動である!
    じつのところ、BDNFの生成を促すのに、運動ほど効果的なものはないといっていい。動物実験では、マウスやラットが運動すると脳がたちまちBDNFをつくりはじめ、運動をやめても数時間はその状態が続くことがわかっている。心拍数がある段階まで増えると、BDNFが大量に生成されるのである。

 

    たとえ、初めて運動をしたあとですぐにBDNFがつくられなかったとしても、あきらめずに運動を習慣づけてほしい。 定期的に運動をすれば、そのたびにBDNFの生成量も増えていくのだから。
    たとえば週に2回、30分ランニングをするとしよう。長時間続けたり、速く走ったりする必要はない。ランニングを1回するごとに、BDNFの生成量は少しずつ増える。ランニングをやめても、一旦増えたBDNFの値はすぐには下がらず、2週間ほど経ってからやっと下がりはじめる。BDNFを増やすことにかぎっていえば、一日も休まずに運動しなくてもよいということだ。

 

    BDNFを増やせる活動は、有酸素運動だ。筋力トレーニングでは、同じ効果が得られないといわれている。BDNFを大量に増やしたければ、定期的に活発に身体を動かすことが好ましく、有酸素運動のうちでもとくに「インターバル・トレーニング」が適している。
    インターバル・トレーニングとは、「60秒激しく動いて60秒休む」を1セットとし、それを10回繰り返すようなトレーニングで、ケガのリスクを考えればランニングよりサイクリング(フィットネスバイクなど)がおすすめだ。
    もっとも肝心なのは心拍数を増やすこと。毎回そこまで運動量を上げられなければ、ときどきでもよい。

 

   運動で「海馬の細胞数」が増える


    うつ病になると、脳は少しずつ縮んでいく。だが、じつのところ、すべての人の脳は少しずつ縮んでいる。25歳ごろから、1年で約0.5%ずつ小さくなっているのだ。
    だが、うつ病になると、そのスピードは加速するという。これは脳に新しい細胞が生まれないことと関係している。現代の科学では、脳の細胞は成人してからでも増えることがわかっているが、うつ病になると、細胞の新生が阻害されてしまうのだ。

(p182)

 

意欲が減退することに、こんな物質が関係していたとは。そしてここまで明らかになっていることがちょっと嬉しい。うつを発症したら、この文章のこと、思い出せるといいなあ。

そして個人的には最近、HIIT(ヒット。High Intensity Interval Training(高強度インターバルトレーニング)のこと)について知ったので、ちょっとテンションが上りました。

 

melos.media

 

ただ、巻末の「どんな運動をどのくらい?」には、こうあります。

「より高い効果を望むなら、最低30分のウォーキングをしよう。

脳のための最高のコンディションを保つためには、ランニングを週に3回、45分以上行うことが望ましい。重要なポイントは、心拍数を増やすことだ。

 そして、有酸素運動を中心に行おう。筋力トレーニングも脳によい影響をおよぼすが、どちらかといえば有酸素運動のほうが望ましい。あなたが筋力トレーニングのほうを好むとしても、持久力系の運動をぜひ取り入れてほしい。(p355)」

 

45分以上のランニングを週に3回…。うーん、やはり結構ハードルは高いなあと思いました。

なんの気休めにもならないかもしれませんが、これを読んでから、自宅からバスまでの3分、会社の最寄り駅から会社までの5分をとりあえず走ることにしました。帰りも同様に。むちゃくちゃ短距離なので、意外と続いています。

 

  あなたが他人より老けやすい確率は「33.3%」

 

    認知能力がまったく損なわれていないことが、身体の機能が正常に働くためだけで
なく、仕事をするうえでも欠かせない場合がある。
    年齢を重ねるにつれて、集中力やマルチタスキングの能力、判断力は緩やかに衰えていくが、それは仕事が続けられなくなることにもつながる。そして、ここで例として取り上げる「航空機のパイロット」は、認知機能が完璧であることを常に要求される数少ない職業の一つといえよう。

 

    スタンフォード大学の研究チームが、「パイロットの加齢による飛行技術の変化」を調べるため、フライトシミュレーターを使って144名のパイロットの技能を1年ごとにテストした。このテストによって、飛行中に想定される緊急事態_エンジンや着陸装置の故障、別の航空機が空域に迷い込んで衝突する恐れがある、などのあらゆる事態に直面したとき、彼らがどのように対処するかが観察され、その技能が見極められた。
    調査を始めて数年が経つと、パイロットの技能が年々落ちていることがわかってきた。脳が老化することを考えれば当然である。ところがそのなかに、ほかのパイロットの2倍の速さで技能が低下している人たちがいた。そのパイロットたちの遺伝子を調べたところ、脳の肥料であるBDNFの遺伝子が数多く変異していた。また彼らは、この変異が見られないパイロットに比べて海馬の萎縮の進み具合も速かった。
    この変異型の遺伝子は、144名のパイロットの3分の1に見られた。 全人口に置き換えても、同じ割合でこの遺伝子を持つ人がいると考えられる。人類の3分の1が、これと同じ遺伝子を持っている可能性があるのだ。つまり3人に1人が、脳の老化や海馬の萎縮を早め、知的能力の衰えを促す遺伝子を持っているかもしれない。

 

    では、この遺伝子の影響を阻止する方法はあるのだろうか。
    残念ながら生まれ持った遺伝子そのものを変えることはできない。親から変異型の遺伝子を受け継げば、体内には確実にそれが存在する。だが運動することでBDNFを増やすことは可能であり、とくにインターバル・トレーニングのように負荷の大きい運動は効果があるといわれている。
    この研究を指揮した科学者は、アメリカのメディアにインタビューで次のように述べている。「脳内のBDNFを確実に増やす、明確に立証された方法があります。それは運動です」
    運動をすれば、知性が衰えないためのコンディションを保つこともできる。脳の老化も、知性の老化も食い止めることができるのである。人類の3分の1が脳の老化を早める遺伝子を持っているならば、私たちはすぐにでも運動を始めるべきだろう。(p315)

 

そう言われればそんな気もしますが、老化のスピードは人によるんですね。

「3人に1人が、脳の老化や海馬の萎縮を早め、知的能力の衰えを促す遺伝子を持っているかもしれない」と知ったら、そしてその老化を食い止める方法が運動なんだと知ったら、もう運動する以外の選択肢はないように思えてきます。

 

    あなたの頭脳は「たった1秒」で激変した

 

    私たちが農耕生活に転じて以来、1万年が経過した。これは永遠にも思える年月だ。
だが生物学的に見れば、きわめて短い期間だといえる。
    私たちが農民だった時代は、時間軸で考えると人類の歴史全体のわずか1%に過ぎない。
工業化社会は約200年続いたが、今の私たちにとって1800年代は紛れもなく遠い昔であり、これも非常に長い年月といえるだろう。
    とはいえ進化の観点では、ほんの一瞬に過ぎない。人類の歴史を1日に短縮すると、私たちは午後11時40分まで狩猟採集生活を送っていた。
    そして工業化社会が始まったのは、午後11時58分40秒。1日が終わるまで、あと20秒というときだ。

 デジタル社会、つまりインターネットにつながったのは午後11時58分38秒。1日24時間のうちの最後の1秒である。
    ほかの生物が進化を遂げる年月を思えば、人間の進化がいかに気の遠くなるような年月を要するかがよくわかる。たいていは大きな変化が起きるまで1万年、いやもっと長くかかるものだ。
    要するに、一般的な現代人は100年前の人間とも1000年前の人間とも、1万年前の人間とも遺伝子的には変わらないのである。

 

    よく考えてみてほしい。 人類の歴史において、ほんの短期間に生活様式がことごとく変わり、それによって身体を動かす必要性は半分に減った。人類の進化が何万年もの年月をかけて緩やかに進むことを考えると、私たちの生活様式は、脳の進化の速度をはるかにしのぐ速さで変わったことがわかる。生活様式の変化に、肉体が追いついていない状態だ。
    生物学的には、私たちの脳と身体は今もサバンナにいる。私たちは本来、狩猟採集民なのである。

 

    この事実を、これまで述べてきた内容―運動をすれば、脳の機能が強化される。気分が晴れやかになり、不安やストレスが和らぐ。創造性が増して、集中力が高まる。逆に身体を動かさないと不安にとらわれて悲観的になる。物事に集中できなくなる―と合わせて考えれば、現代人を悩ませる「あらゆる心身の不調」は、身体を動かさなくなったことが原因だと考えていい。
 人類は、「生物としての歩き方」が間違っているのだ。

(p342)

 

この、人類の歴史を24時間に例えた話好きです。

自分の体も脳みそも、まだサバンナにいた頃とさほど変わらないと思うと、あっちが痛いとかこっちが調子悪いだとかは、自分のとんでもない運動不足が原因で起こっている不調なんだろうな、とも思えて、何となく腑に落ちます。

 

ということで、今回はここまで。

またまた長くこちらのブログを放置してしまっていましたが、せっかく読んだ本たちのことをどんどん忘れていってしまうので、再開しました。

 

また見に来てくださると嬉しいです。

 

 

 

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