ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

美味しいという幸せ。『もぐ∞(もぐのむげんだいじょう)』を読んで

おはようございます。ゆまコロです。

本年も宜しくお願い申し上げます。

 

最果タヒさんの『もぐ∞(もぐのむげんだいじょう)』を読みました。

食べ物に関するエッセイです。

どのページの食べ物も魅力的なので、空腹の時に読むと、いても立ってもいられなくなります。

 

特に好きな食べ物がこちらの2つ。

 

「そもそもほとんどの食べ物の場合、その名前って、そんなに意味がないのではないか。ハムって言っても、ものによってまったく見た目も味も違うし、それなのに料理を注文するときはその言葉を使うしかないなんて、なんだか遠回りすぎないか?それはハムだけじゃなくて、レストランの言葉だけのメニューはいつも、得体が知れず、これはなんですか、と店員さんに聞かずにはいられない。写真がついていないメニューって意味がないと思うのは私だけでしょうか。私、詩人だけど、言葉を信じてないみたいです。他はともかくメニューの言葉は、とにかくまったく信じていない。」
(p69「「オムライスが食べたい」は詭弁」)

 

私、詩人だけど、言葉を信じてないみたいです。」というのは、言葉を日常的に扱う職業に就いている人だからこその言葉だなあと思います。

同じ言葉を使って伝わること・伝わらないことの力の加減をよく分かっていらっしゃるからこその発言だと思う。

 

「何も考えたくないけれど、何も考えないでいると、お腹がすいたり眠くなったり、不潔になったり、部屋がぐちゃぐちゃになったりする。そうしてそれでまたいろんなことにしんどくなる。ああ、なにもできていない、ということを今度は考えてしまい、こんなことでいいんだろうかと、急に将来のことまで不安になり、時が解決するのにその時が来なくなる。だから、考えないままでなにもかもを進めていかなければいけない。とくにお腹が空くというのは大きな問題だった、何を食べるか、ということを考えて、どうやって作るか、ということを考えて、どうやって食べるか、どれから食べるか、ということを考えなくてはいけない。なんでこんなにしんどいことを私はいままで平気でやっていたのだろうなあ、と思う。だめだ、さっさと寝ろ、と言いたい。が、寝る前に食べないと、空腹で目が確実にさめるぞ!


 ということで何も考えずに、「作る」から「食べる」までをすんなり進めてくれる食べ物が必要だった。それが鍋です。鍋。具材はとにかく切る、そして汁を入れて、具を入れて煮て、食べる。食べるときはとにかく箸をつっこんでつかんだものから順番に食べる。そうして食べ終わる。ああお腹いっぱいと天井を見ていると、次第に体の内側がぽかぽかして、そういえばあの漫画ってそろそろ続きでてんじゃないの?ということを自然と考える、検索する。お、明日買いに行こう、決める、そのころには立ちあがって鍋を片付ける元気もあり、お風呂に入って、部屋をそれなりに片付けて眠ることだって可能になる。なにかよかったって、鍋が良かったのだけれど、鍋がおいしいから良かったというより、鍋が楽だから良かった。」
(p141「これでも愛しているんだ、鍋。」)

 

この鍋の話こそまさに、「腹が減っては戦はできぬ」ということですよね。

食事の大切さと、生きる活力を体現したような話だと思います。

 

なにもかもがしんどい→鍋ならできそう→なんだかいろいろやる気が出てきたかも、という、身に覚えのある一連の行動がすごくよく分かる。

上手な表現だなあと思いました。

 

なにもかもうまくいかなくて、将来のことが不安になったらまた思い出したいお話です。

今年も毎日元気で、美味しくご飯が食べられますように。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。