ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

瀬尾まいこ『卵の緒』

おはようございます、ゆまコロです。

 

瀬尾まいこ『卵の緒』を読みました。

 

印象的なのは、育生くんがお父さんを亡くすこのシーンです。

 

 僕はたった一瞬の間に自分に関するいろんなことを知ってしまった。なぜか大きな驚きはなかった。ただ、不思議なことに僕は泣いていた。母さんがかわいそうだからじゃなく、父さんが死んじゃったからでもない。理由は分からない。僕の目から涙がぽたぽた落ちていた。

 

この後、名字が変わった彼を、池内君がクラスに溶け込ませてくれるところも良いです。

 

 

「大丈夫。明らかな弱点を掲げるとみんないじめたりしないし。小学生だって同情するの大好きだから」

 

もっともだ。七生の言うとおりだろうなと思った。

 

 

こういう処世術を身に付けた11歳は、本当にいそうなところがリアルです。

あと好きなのは、この文章。

 

 

「さっきのはべんちゃらよ。野沢だけだったら、生きていけない」

 

「えーなんだよそれ。俺は里村だけいれば十分だよ」

 

男ってこういう明白なうそを本気で言うから、どうしようもない。

 

 

個人的には物語の序盤よりも、がんの母親が自分の代わりに、夫の愛人の子どもを短期間預かることになった後編のほうが面白いと感じました。

 

幸福な食卓』を読んだ時にも思いましたが、大事な人が自分の目の前からいなくなる、という辛い出来事を、当事者と周りの人の心の動きを丁寧に追うことで、温かみのあるお話になっているところが、この作家さんの良さであるように思います。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

卵の緒 (新潮文庫)

卵の緒 (新潮文庫)