ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

小説

文学から見るジェンダー平等の世界。『特別な友情』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 『特別な友情』を読みました。 萩尾望都先生が『トーマの心臓』を書くきっかけとなった映画『悲しみの天使』の原作が載っていると知り、手に取りました。 掲載されている12編の中で、私が気に入ったのはカサノヴァの『…

騎兵研究と柔軟な思考に瞠目。『坂の上の雲 七』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲 七』を読みました。 秋山好古さんの日露戦争での活躍が眩しすぎる七巻です。 夜になった。 敵のほとんどが退却し、もしくは潰走したが、しかし一部だけはなお大房身北方にとどまり、好古の…

諜報活動のモデルケースと呻吟。『坂の上の雲 六』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲 六』を読みました。 六巻は秋山兄弟よりも、明石元二郎さんのロシアの内部撹乱工作がとにかく際立つ巻です。 福岡藩の出身で、かれの士官学校同窓の牧野清人が語りのこしているところでは…

美しい思い出を見つめる幸せ。『迷える夫人』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 ウィラ・キャザーさん、桝田隆宏さん(訳)の『迷える夫人』を読みました。 ドアのような緑の鎧戸は下ろされたままであった。 窓の敷居の上に花束を置こうと身をかがめた瞬間、室内から低い女の笑い声が聞こえてきた――じ…

暴力の時代で、自らの人生を振り返ること。『鉄の時代』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 J・M・クッツェーさん、くぼたのぞみさん(訳)『鉄の時代』を読みました。 著者は南アフリカのノーベル賞作家さんです。 本書はアパルトヘイト政策が崩れる頃の1990年に発刊されました。 アパルトヘイトとは、白人とそ…

チェコの歴史が垣間見える。『僕の陽気な朝』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 イヴァン・クリーマさん、田才益夫さん(訳)の『僕の陽気な朝』を読みました。 イヴァン・クリーマさんはプラハの春事件(1968年に起こったチェコスロバキアの変革運動)前に、ミラン・クンデラら作家たちと共産党批判…

対局の人の立場に立ってみる。『自転しながら公転する』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。山本文緒さんの『自転しながら公転する』を読みました。 娘が温泉へ行った日、夫から定時で帰ってくるとメールが入ったのでしぶしぶ台所に立った。 夫がインターネットで探してきた、具材が切ってあり、炒めるか煮るかす…

生き方を考えることはお金をどう使うか考えること。『三千円の使いかた』を読んで

こんばんは、ゆまコロです。 原田ひ香さんの『三千円の使いかた』を読みました。 母が原田ひ香さんにハマっており、その中でもこれは特におすすめ、と貸してくれたのがこの本です。 主人公となる語り手は、御厨家の女性たちです。 ・就職して一人暮らしをは…

どの道を選んでも、肯定できる女性たちの姿。『マイ・アントニーア』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 先日、友人と話していて、私が学生時代にコロラド州へホームステイをした話になり、その友人(職業は英語教師)が「以前、コロラドが出てきた話を英語で読んだことがある」とウィラ・キャザーさんの本を教えてくれました…

ブッツァーティ『タタール人の砂漠』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 ブッツァーティ、脇功(訳)『タタール人の砂漠』を読みました。 そう、いまでは彼は将校なのだ、金も入るし、美しい女たちも振り向くことだろう。だが、結局は、人生のいちばんいい時期、青春の盛りは、おそらくは終わ…

ポール・オースター『インヴィジブル』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 ポール・オースター、柴田元幸(訳)『インヴィジブル』を読みました。 私はこれが終わってほしくなかった。不思議な、測りがたきマルゴと一緒にその不思議な楽園で暮らすことは、それまで私の身に起きた最良の、最高にあ…

オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 オルガ・トカルチュク、小椋彩(訳)『昼の家、夜の家』を読みました。 ノヴァ・ルダの協同組合銀行に勤めるクリシャは夢を見た。一九六九年の早春のことだった。 夢のなかで彼女は、左耳に声を聞いた。はじめは女性の声…

シュトルム『みずうみ/三色すみれ/人形使いのポーレ』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 シュトルム、松永美穂(訳)『みずうみ/三色すみれ/人形使いのポーレ』を読みました。 読んだのはずいぶん前なのに、心に残るシュトルム作品。 大好きな松永美穂さんの訳で文庫になっていたので、再読しました。 3話入…

ポール・オースター『写字室の旅』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 ポール・オースター、柴田元幸(訳)『写字室の旅』を読みました。 自由に旅行ができないこの時節柄、旅というタイトルに心踊りましたが、主人公の置かれた状況は、これ以上無いくらい閉鎖的でした。 どうして捕らえられて…

ポール・オースター『闇の中の男』を読んで

おはようございます、ゆまコロです。 ポール・オースター、柴田元幸(訳)『闇の中の男』を読みました。 作中で更に違う物語が展開される「物語中物語」が面白い(場合によると本編よりも)のは、オースター作品ではよくあることですが、今回は物語中物語とメ…

新海誠『小説 天気の子』

おはようございます、ゆまコロです。 新海誠『小説 天気の子』を読みました。 ーそうか。皆が取材でなんでも話してくれるのは、だからだ。女子高生も大学の研究者もいつかの占い師も、相手が夏美さんだからこそあんなふうに喋ったのだ。誰のことも否定せず、…

ポール・オースター『冬の日誌』

おはようございます、ゆまコロです。 ポール・オースター、柴田元幸(訳)『冬の日誌』を読みました。 より繊細な、より美しく、最終的にはより充実感のあるゲーム― もっとも暴力的でないスポーツたる野球の技能を君は着々と身につけていき、六つか七つのこ…

斉藤洋『ルドルフとノラねこブッチー ルドルフとイッパイアッテナV』

おはようございます、ゆまコロです。 斉藤洋『ルドルフとノラねこブッチー ルドルフとイッパイアッテナV』を読みました。 「ねえ、イッパイアッテナ。イッパイアッテナがアメリカにいこうと思ったのは、また、日野さんの飼いねこになるためだったのかな。ぼ…

ポール・オースター『ブルックリン・フォリーズ』

おはようございます、ゆまコロです。 ポール・オースター、柴田元幸(訳)『ブルックリン・フォリーズ』を読みました。 その家族ディナーを、私はきわめて暖かい場として記憶している。誰もがグラスを掲げ、トムの成功にお祝いの言葉を述べた。私が彼の歳だ…

あさのあつこ『さいとう市立さいとう高校野球部 下』

おはようございます、ゆまコロです。 あさのあつこ『さいとう市立さいとう高校野球部 下』を読みました。 我が母親の名誉のために言っておくけど、おふくろは気紛れで、忘れっぽく、かなりの天然で“こまったちゃん”の要素が無きにしも非ずだが、息子や娘に対…

あさのあつこ『さいとう市立さいとう高校野球部(上)』

こんにちは、ゆまコロです。 あさのあつこ「さいとう市立さいとう高校野球部(上)」を読みました。 ひさびさの、あさのあつこ先生の本です。 家族って、何でこんなに鬱陶しいんだろう。 ときどき、全部捨てられたらどれくらいすっきりするだろうなってやばい…

斉藤洋『生きつづけるキキ―ひとつの『魔女の宅急便』論―』

おはようございます、ゆまコロです。斉藤洋『生きつづけるキキ―ひとつの『魔女の宅急便』論―』を読みました。 『魔女の宅急便』シリーズが完結してしまい、寂しさを感じていたので、手に取りました。そうしたら、大好きな『ルドルフとイッパイアッテナ』の作…

ペーター・ハントケ『幸せではないが、もういい』

おはようございます、ゆまコロです。 ペーター・ハントケ、元吉瑞枝(訳)『幸せではないが、もういい』を読みました。 ノーベル文学賞を受賞された作家さんですが、お恥ずかしながら、受賞されるまで知りませんでした。 本書は、著者の母親の思い出について…

角野栄子『キキとジジ 魔女の宅急便番外編その2』

おはようございます、ゆまコロです。 角野栄子『キキとジジ 魔女の宅急便番外編その2』を読みました。 この巻では、キキよりもどちらかというと、ジジが何を考えて大きくなったか、ということが重点的に書かれています。 9歳のキキが、自分は魔女にはならず…

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟 1』

おはようございます、ゆまコロです。 ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟 1』を読みました。 (感想の順序がひっくり返りましたが、)1巻で好きなところは、次の二ヶ所です。 (前略)この青年は人々を愛していたし、どうやら他人のことを完全に信頼しつ…

ポール・オースター『オラクル・ナイト』

おはようございます、ゆまコロです。 ポール・オースター、柴田元幸(訳)『オラクル・ナイト』を読みました。 物語序盤の、主人公シドニーが文房具屋を見つけて入る場面が好きです。 文具好きがこんな文房具屋さんを偶然見つけたら、すごく喜ぶだろうな、と思…

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻』

おはようございます、ゆまコロです。 ドストエフスキー、亀山郁夫(訳)『カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻』を読みました。 「ほんとうにどんな人間でも、だれそれは生きる資格があって、だれそれは生きる資格がないってことを、自分以外の人間について…

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟 4』

おはようございます、ゆまコロです。 ドストエフスキー、亀山郁夫(訳)『カラマーゾフの兄弟 4』を読みました。 この巻で好きなのは、幼いミーチャとゲルツェンシトゥーベ先生の、出会いの場面です。 恐ろしかったのは、イワンが幻覚症になるシーンです。…

ポール・オースター『孤独の発明』

おはようございます、ゆまコロです。 ポール・オースター、柴田元幸(訳)『孤独の発明』を読みました。 この本を読んで、著者がどれほど書くことを愛し、また書くことに苦しめられているか、はじめて文章を通して伝わってきたように思いました。 作家という…

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟 3』

おはようございます、ゆまコロです。 ドストエフスキー、亀山郁夫(訳)『カラマーゾフの兄弟 3』を読みました。 面白くなってきたので、さらっと行きました。 この巻で好きな場面を選ぶとしたら、この二つです。 「どうしたのです?泣かずに喜びなさい。そ…