ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

イサク・ディネセン『アフリカの日々』

おはようございます、ゆまコロです。

 

イサク・ディネセン『アフリカの日々』を読みました。

 

イサク・ディネセンはデンマークの作家です。

以前、デンマークのガイドブックで記念館の紹介を見たときは「カレン・ブリクセン」というお名前だったような気がしたので、あれ?っと思ったのですが、デンマーク語と英語で執筆されていたことが関係しているようでした。

 

デンマーク語では本名のカレン・ブリクセン

・英語ではペンネームのイサク・ディネセン

を使い分けているとのこと。

 

作者は1914年にケニアに移住し、夫婦でコーヒー農園を経営します。

 

物語は彼女の日記のように、日々、いろんな人との出会いがあり、様々なことが起こります。

私が好きなのは、彼女の家にあるドイツ製のカッコウ時計についてのエピソードです。

 

「山羊の群れを芝生に残して、子供たちは音もなく、裸足で家に入ってくる。年かさの子で十歳、最年少は二歳までだが、たいへん行儀がよく、この家を訪問するについて自分らなりのとりきめをつくり、それを守っている。その作法とは、家のなかではなにもさわらず、腰をおろさず、家の人から話しかけられないかぎり口をきかないこと、というもので、これを守っていれば、家じゅうどこでも好きなだけ動きまわってもとがめられないことを子供たちは知っていた。カッコウが飛びだした瞬間、大きな感動とおさえたよろこびの笑いが子供たちの群れを揺りうごかす。山羊の群れに責任感をもてないほどにまだ幼い牧童が、朝早く、群れを放ったまま一人でやってきて、時計の前に長いあいだ立っていることがときどきあった。扉をとじて鳴こうとしないカッコウに向かって、キクユ語でゆっくりと歌うように「おまえが好きなんだよ」とくりかえし呼びかけ、やがてまじめな顔で立ちさってゆく。ハウスボーイたちはこういう小さな牧童たちを笑いものにして、あの子らは馬鹿だから、カッコウが生きていると思ってるんだと私に言った。」

 

この他、ディネセンの、南国で感じた喜びと苦労がうかがえるところも好きです。

 

「雨期のくる前の週、丘陵はおなじような態度を見せる。夕方眺めていると、突然大きな変化がおこり、丘陵は覆いをはずす。かたちも色もくっきりとあきらかになり、丘陵がもつすべてのものを差し出して身をまかそうとするかに見え、いま坐っているその場から一歩ふみだせば、すぐに緑の斜面を歩けるかと思わせる。もしいま鹿が丘陵の草地にいれば、こちらをふりむいたとたん、鹿の眼がはっきりと見え、耳を動かす様子まで見えるにちがいないし、藪の小枝に小鳥が一羽とまっていれば、その歌う声がきこえるにちがいないという気がする。丘陵がこうした身をまかすそぶりを見せる三月、それは雨期が近いことのしらせである。だが、いまの私にとって、それは別れの挨拶だった。

 

 これまでにもほかの国々で、そこを去る直前、風景がおなじように自分に与えてくれるのを見たことはあったが、その現象のもつ意味を私は忘れていた。ただ、この国がこんなにも美しく見えたことはないと思い、この風景をあとから思い出すだけで、一生しあわせでいられるほどだと思っただけだった。光と影が風景を分かちあい、空には虹がかかっていた。」

 

今度デンマークに行くことがあったら、彼女の記念館を訪れてみたいです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)

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