ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

マーギー・プロイス『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』

こんばんは、ゆまコロです。

 

マーギー・プロイス、金原瑞人(訳)『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』を読みました。

 

英会話教室に通っている友人に、英語劇を発表会で披露するのだが見に来ないか、といわれました。その題材がジョン万次郎の人生と聞いたので、予習を兼ねて読んでみました。

 

恥ずかしながら、彼(ジョン万次郎)のことは、教科書で名前をお見かけした以外には全くと言っていいほど知りませんでした。

 

14歳の時に乗っていた漁船が嵐に遭い、無人島に流れ着いた万次郎と仲間は、偶然近くを通りかかったアメリカの船によって助けられます。しかし、当時鎖国体制の日本列島に外国の船が近づくことは難しく、家に帰れない中、万次郎は英語を覚え、鯨漁の手伝いもします。

その後万次郎は船長の養子となり、アメリカに渡り、学校に通い、樽職人の修行もします。その後、金の採掘をして資金を貯め、一緒に遭難した漁師仲間とともに、ふたたび日本に帰ってきます。

 

たまたま出会った船長が人格者だった、という幸運もあったかもしれませんが、それと同じくらい、すぐに英語を使えるようになったり、船の上での仕事を上手にこなしたりと、彼が有能で、変化を恐れない柔軟な思考の持ち主だったことに感心しました。

 

教会に行くと(もちろんそれ以外の場所でも)、差別されることに悩んだ万次郎と、船長の奥さんとの会話がすごく好きです。

 

「「熱はないわね」といって、ベッドのわきにある椅子に腰を下ろした。「教会にいきたくないだけじゃないの?」

 万次郎はだまっていた。

 ホイットフィールド夫人は眉を上げた。

「教会がいやなんじゃありません!」思わず口走ってしまった。「ただ、みなさんに不幸な思いをさせてしまう。ぼくのせいで…」“不幸”以外にそれらしい言葉が思い当たらなかった。

「そんなことありません!あの人たちは自分で自分にいやな思いをさせているの」

「だけど、ぼくのことがきらいなんでしょう。ぼくにきてほしくないんでしょう」

「そうじゃないの」夫人はいった。「あなたに黒人用の席にすわってほしいだけよ」

「じゃあ、そうします。そんなことでみんなが喜ぶなら、ちっともかまいません」

「そんなことしてもだれも喜ばないわ。それに、ぜったいだめ」夫人はいった。「そんな考えかたがよくないのよ!黒人用の席なんか、なくていいのよ。本当に!そもそも教会は万人の平等を信じる、お祈りの場です。そのうち、人種のちがいなど考えなくていい世の中になって、この国はひどい奴隷制度もなくなる日がくるわ。反対運動が活発になってきているのよ。さあ、起きなさい、ジョン。もうあの教会にはいかないの。ウィリアムがほかの教会を見つけたから。わたしたちと同じ考えの教会よ。すべての人(オール・メン)がーー万人がーー平等に創られていると考える人々のね」

「男(メン)だけでなく、女の人(ウィメン)も?」

「あら、そうね」ホイットフィールド夫人はいった。「でも、それはまた別の問題だわ。女性がもっと権利を持てるようにという運動もあるの。このごろは、いろんなことが起こっているわ。この国はいま、難しいときにさしかかっているけれど、それを乗り越えて成長していくのよ。だれかさんと同じね。こんな気持ちのいい朝に寝ているつもり?さぁ、起きて、世界を変える手助けをしない?手はじめに教会から」

 教会で、万次郎は牧師の話と讃美歌の言葉に集中しようとした。しかし、ホイットフィールド夫人の言葉が頭をはなれなかった。起きて、世界を変える手助けをしない?

 これまで、そんなことができるなどと思ってもみなかった。少なくとも、自分に世界が変えられるとは思ってもいなかった。

 日本では、ずっとなにも変わらないように思えた。もう何百年も同じことが続いている。しかし、ここでは、常に変化が起こっている。いろいろなうわさが流れ、みんなわくわくしている。あっという間に国のあちら側まで、手紙を送る方法があるという。それに、鉄の箱が並んでレールの上を走るらしい。とても速いので、時間がたったという気さえしないといわれている。どの変化も、だれかが起こしているのだ。だれかが世界を変えているにちがいない。自分にも世界を変えられるだろうか?」(p161)

 

この夫婦の間に生まれた子どもを万次郎が可愛がるところと、万次郎が学校で思いを寄せる女の子とのやりとりもすごく好きです。

 

とても良い本でした。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂 (集英社文庫)

ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂 (集英社文庫)