ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』

おはようございます、ゆまコロです。

 

トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』を読みました。ムーミンの1作目です。

 

ムーミンパパはいないし、住む場所もこれから探すという状況なのに、行く先々で嵐に大雨に洪水に見舞われます。

一緒に旅するスニフも「もう二度とお日さまを見られないんじゃないかと思ってたんだ」と言います。

 

トーベがこの話の構想を思い付いたのは1937年頃とのことですが、ムーミンたちが置かれている厳しい状況で、戦争が始まる前にトーベ自身が感じていた不安が伝わってくるようです。

 

「「パパのこと、なにか話してよ。」

  ムーミントロールがたのみました。

「ありきたりのムーミントロールではなかったわ。」

  ママは考えこみながら、かなしそうにいいました。

「パパはいつでもどこかへ行きたいと思っていたの。ストーブからストーブへと転々とね。どうしても満足できなくて、ある日、いなくなってしまったの。あの小さな放浪者、ニョロニョロたちといっしょに旅に出てしまったのよ。」

「それ、どういう生きものなの?」

  スニフがたずねました。

「小さなトロールのおばけみたいなものよ。」

  ママは説明します。

「ふだんは目に見えないの。人間の家の床下にいることもあって、あたりがしずまりかえった夕ぐれに、ニョロニョロたちの歩きまわる音がきこえたりする。でも、たいていは世界じゅうを放浪していて、どこにもおちつくことはないし、なにひとつまわりのことに関心をもたない。ニョロニョロがよろこんでいるのか、おこっているのか、かなしんでいるのか、おどろいているのか、だれにもわからないのよ。感情というものがまったくないんじゃないかしら。」

「それじゃあ、パパもニョロニョロになってしまったの?」

  ムーミントロールはききました。

「まさか、とんでもない!」

  ママはいいます。

「わかるでしょう?ニョロニョロがパパをだまして、つれていってしまったのよ。」

「ねえ、いつかわたしたちと会えたら、パパはよろこんでくれるかしら?」

と、チューリッパがいいました。

「もちろんよ。」

と、ママ。

「でも、たぶん会えないでしょうね。」

  そういって、ママはなみだをぬぐいました。

  みんなもかなしくなって、すすり泣きをはじめました。泣いているうちに、ほかにもいろいろかなしいことが思い出されて、ますます泣けてきます。」p30

 

これからどう状況が変わっていくのか、ムーミンが書かれた年代順に折を見て読んでいこうと思います。

 

読んで下さってありがとうございました。

 

小さなトロールと大きな洪水 (講談社文庫)

小さなトロールと大きな洪水 (講談社文庫)