ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

ジャン・ジュネ『葬儀』

おはようございます、ゆまコロです。

 

ジャン・ジュネ生田耕作(訳)『葬儀』を読みました。

 

作者はフランスの小説家・劇作家・詩人です。

 

読んだ印象は、作者自身が思索を巡らしている段階なのかな、という感じでした。

もちろんそういう効果なのでしょうが、物語になる前に、頭の中であっちに肩入れしたり、こっちに寄り添ったりするような感じです。

 

しかし、時々はっとするほど描写が細やかで、美しさを感じることがあります。

好きな箇所はこちらです。

 

 

復活が不可能であることはわかっている、このときもわかっていた、だけど私のために世界の秩序が攪乱されぬとも言いきれない。せめて骨一つなりと、歯一枚なりと手に入れんがために、ジャンのような素晴らしいものが可能であったことをいまいちど確かめるために、いっとき私は、誰か人を、墓掘り人夫を雇って、かの若者の名残を掘りおこすことを考えたほどだ。哀れな「土地の下のジャン」。どのような姿ででもよいから、もう一度私たちの間に戻ってきてもらいたかった。たとえば人里離れた、掘立小屋の奥に、枯草の寝床に横たわった、音のせぬ幻のギターみたいな、白縞の黒い板切れを張り合わせただけの姿であろうと。夜も、昼も、気晴らしのためにすら、そこから出ることがかなわなくとも。絃も弾奏爪もない、言葉もろくに出せぬ、板の割れ目からおのが運命をかこつだけの、その粗削りなギターの姿のもとで、彼の暮らしはどんな具合だろう?私にとってそれはどうでもいいことだ。彼は生きて、この世に現存するのだ。

 

 

こんなふうにいなくなった人のことを思う気持ちはなんとなく分かります。

 

宇野邦一氏による解説が、ジャン・ジュネ作品の魅力を分かりやすく伝えてくれています。

 

 

ジュネの小説は、確かに悪を讃え、裏切り者を讃え、『葬儀』ではほとんどナチスの体制さえも讃えているように見えるが、彼がほんとうに讃えているのは、正確には、悪や裏切りや暴力における身ぶりであり、身ぶりが瞬間描き出す図や線や、細かい襞なのだ。その傾向は『恋する虜』では、ますます顕著になっている。結局ジュネは悪を擁護する以上に、善と悪を共通につらぬくより根本的な平面をいつも注視している。その平面は、身体から、とりわけ身振りからなっている。あるいは単語の発音のわずかな変異が、それにからまっている。

 

 

 

作者のジャン・ジュネ(1910-1986)とはこういう方です。

 

  • 母親は産後まもなく彼を見棄て、父親は不明。7歳の時、養親のもとへ。最初のうちは真面目な子供だったが、10歳ごろから盗癖の兆しが見られ、16歳で感化院(児童養護施設)へ。10代の大半を感化院で過ごす。

 

 

 

ドラマのような経歴です。

彼の人生だからこその表現なのかなと思いました。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

葬儀 (河出文庫)

葬儀 (河出文庫)