ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

マーガレット・アトウッド『侍女の物語』

おはようございます、ゆまコロです。

 

マーガレット・アトウッド侍女の物語』を読みました。

 

子どもを産むための存在として生きる女性の物語です。

彼女が暮らすのは、本を読むことも好きな場所へ行くことも、家族と一緒に暮らすことも妨害されたあとの世界です。彼女はただ子どもを身ごもることだけを期待されて、あるお家にやってきます。

お話は、彼女が侍女として仕える家での出来事や、こうなる前はどんな世界だったかを思い出したりしながら進みます。

 

女性が仕事をすることはもちろん、友人とお喋りしたり、好きなものを食べたり、化粧水を塗ったり、といったことも出来ず、あまりにもいろいろ禁じられるので、なんだかこちらも息苦しくなってきます。

 

そんな不自由さの中で、自分の体が自分の意のままになっていた頃を思い出す描写が愛らしいなと思いました。

 

「どろ沼や湿地に沈み込むように、自分の体のなかに沈み込んでいく。そこは、わたしだけが足場を知っている場所。足元の不確かな、わたし自身の領域だ。わたしは、未来の噂を聞くために自分の耳を当てる大地になる。体のひとつひとつの疼(うず)き、かすかな痛みのつぶやき、分泌物のさざ波、体の組織の拡大と縮小、肉の洩らすたわごとに聞き入る。それらは兆候であり、それについて知っておかねばならない。毎月、わたしは血の訪れを恐る恐る待つ。というのも、月経があればわたしは失敗したことになるから。今まで何度もわたしは他人の期待に応えるのに失敗してきた。それは今ではわたし自身の期待になっている。

 

 かつてわたしは自分の体を、喜びの道具か、移動の道具か、あるいは自分の意思を成就させるための手段だと思っていた。わたしはそれを動かすことができた。あれやこれやのボタンを押せば、何かを起こすことができた。限界はあったけれど、それでもわたしの体はしなやかで、貴重で、信頼できる、わたし自身のものだった。

 

 今、その肉体は違った風に形作られている。」(p140)

 

もう一つ印象的なのは、彼女と、その子供を産むことになっている男性「司令官」とのこの会話です。

 

「我々は女性からいろいろなものを奪いましたが、それ以上のものを与えたんですよ、と司令官は言った。かつて彼女たちがどんな悩みを抱えていたか考えてごらんなさい。シングル・バーや、高校のブラインド・デートがいかに屈辱的だったかを覚えていませんか?肉体の市場のようなものでした。楽に男を手に入れられる娘と、なかなか男を手に入れられない娘とのあいだに残酷な差別があったのです。それを忘れましたか?彼女たちの一部は絶望的になり、絶食して痩せたり、胸にシリコンをいっぱい注入したり、鼻を削り取ろうとしました。その人間の惨めさを考えてごらんなさい。

 

 彼は手を振って古い雑誌の束を示した。女性たちは年中不満を言っていました。あれやこれやの問題でね。個人広告欄の恋人募集の広告を思い出してごらんなさい。当方、明るく魅力的な女性、三十五歳……そんなふうにしてみんな男性を手に入れていたのです、例外なくね。しかも結婚したらしたで、ひとりかふたりの子供を抱えて取り残されることもあったのです。夫がウンザリして家を出てそれっきり姿を消してしまってね、彼女たちは生活保護を受けねばならなかった。そうでなくても、夫が家でぶらぶらして彼女たちを殴ったりした。また仕事を持てば持ったで、子供たちを保育所か、誰か乱暴で無知な女性に預けねばならなかった。しかもその費用を、彼女たちは惨めなほど少ない給料から自分で捻出していたのですよ。あらゆる人間にとって唯一の価値基準はお金でした。彼女たちは母親になっても尊敬されなかった。女たちが母親の役をすっかり投げ出そうとしていたのも当然です。でも今のような状態なら、女性たちは保護され、生物学的な役目も無事に果たすことができる。完全な援助と激励の下にね。さあ、言ってごらんなさい。あなたは知的な女性だ。あなたの意見を聞きたい。我々が見落とした点がありますか?

 

 愛です、とわたしは言った。

 

 愛? と司令官は言った。どんな種類の愛です?

 

 恋に落ちることです、とわたしは言った。司令官は少年の率直な目でわたしを見た。

 

 ああ、それなら、と彼は言った。雑誌で読みましたよ、それを雑誌は売り込んでいたんでしょう?でも、統計をごらんなさい。恋に落ちることに、それだけの価値がありましたか?昔から、あらかじめ決められた縁談も同じくらい良い結果を残してきたんですよ、それ以上ではなかったにせよね。」(p400) 

 

ここまで来て、主人公が置かれている状況を考えると、上記の司令官の話には何とかして反発したくなります。

 

しかしふと考えると、そもそも何で、この事態に怒りを感じるのだろう?と、我に返ることもありました。

 

物語でたびたび起こる理不尽な出来事に、腹が立ったりもしますが、それが頻繁すぎて、読み手としての自分の方もだんだん無気力になったり、それどころか、どうしたらこの後起こりそうな危機を回避できるだろう?と逃げだす方法を考えたりしています。

 

自分がこの世界に置かれたらどう振る舞うだろう…。

自分がどういう未来を望んでいるのか、この場所で取り出して見せられるような、厳しい本でした。

でも面白かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)