おはようございます、ゆまコロです。
ポール・オースター、柴田元幸(訳)『トゥルー・ストーリーズ』を読みました。
この本はオースターのエッセイなのですが、読んでいるとなぜかそのことを忘れて、彼の小説みたいな印象を受けるのが不思議です。
特に心に残ったのは、2つの章です。
「船員の一人が、私のそばを通るたびに私のことをサミー〔※ユダヤ人の蔑称〕と呼ぶようになったのだ。本人は愉快らしかったが、私には面白くも何ともない。やめてくれ、と私は言った。その次の日もまた同じことをするので、やめてくれ、ともう一度言った。その次の日もまたやったところで、これは礼儀正しい言葉では駄目だと悟った。私は彼のシャツをつかんで、体を壁に叩きつけて、すごく落着いた声で、もう一ぺん言ったら殺すと言った。自分がそんなことを言うのを聞くのはショックだった。私は年中他人と暴力をやりとりする人間ではなかったし、そんな脅しの文句を人に言ったことはそれまで一度もなかった。だがそのつかのまの一瞬、悪魔が私の魂にとり憑いたのだ。幸い、私の剣幕のおかげで、喧嘩ははじまる前にもう勢いを削がれていた。私の迫害者は和平の合図に両手を上げた。
「冗談だよ」と彼は言った。
「ただの冗談だって」。」(「その日暮らし」)
話題としては穏やかではないのですが、この「自分がそんなことを言うのを聞くのがショック」という、自己分析が好きです。
もう一つはこれです。
「●笑顔
状況として必要ないときでも笑顔を浮かべること。怒りを感じているとき、みじめな気持ちのとき、世界にすっかり押しつぶされた気分のときに笑顔を浮かべること―
それで違いが生じるかどうか見てみること。
(中略)誰か笑顔を返してくれる人がいるかどうか見てみること。
それぞれの日に受けた笑顔の数をたどっておくこと。
笑顔が返ってこなくてもがっかりしないこと。
受け取った笑顔一つひとつを、貴い贈り物とみなすこと。」
「●知らない人と話す
あなたの親しげな態度にとまどったか、脅威を感じたか、憤ったかしたせいで声をかけてくる人もいるはずである(「お嬢さん、何か文句あるのかい?」)。
相手の警戒心を解くような褒め言葉をすぐさま口にすること。「いえ、そのネクタイ素敵だなって思っただけ」「いいドレスねえ」
話すことが尽きてきたら、天気を話題にすること。醒めた連中は天気なんて陳腐だとけなすが、実は話のきっかけとしてこれほど役に立つテーマはない。
知らない人間と天気の話をするのは、握手して武器を脇へ置くことである。それは親善のしるしであり、私もあなたと同じ人間なんですと認めるメッセージである。
人間同士をひき裂くものがかくも多く、憎しみや不和がかくも蔓延しているなかで、我々をひとつにしてくれるものたちのことを覚えておくのは悪くない。知らない人と接する上で、そういうものたちから離れぬよう努めれば努めるほど、都市の士気は向上するだろう。」(「ゴサム・ハンドブックーS・Cのためのニューヨーク・シティ暮らしの改善法」)
他にも野球の話などから、筆者はニューヨークという町が好きなんだな、と読んでいて思います。
エッセイがオースターの小説みたい、というより、オースターの小説が彼の生活みたいなのかはよく分かりませんが、筆者の考えていることが他の作品より近くにある感じがして、面白かったです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
- 作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/12/21
- メディア: 文庫
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