ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

『ハムレットQ1』を観てきました。

おはようございます、ゆまコロです。

 

さいたま芸術劇場で『ハムレット』を観てから6日後、今度は渋谷・パルコ劇場で『ハムレットQ1』を観てきました。

 

Q1とは何なのか?というと、『ハムレット』の原書には3種類あることが関わってきます。

 

ハムレットには三つの異なる印刷原本が存在しており、二つの四折版(quatro)をQ1とQ2、もう一つの二折版folio)をF1と呼ぶ。

  • Q1(1603年、約2150行):短縮版を役者の記憶に基づき再現した海賊版とされているが、現在では真正であり、Q2の原型ではないかと考えられている(安西徹雄の訳により光文社 から2010年に出版されている)。
  • Q2(1604年 - 1605年、約3700行):草稿版。真正かつ完全なる原稿であり、海賊版に対抗して(現在の説ではQ1の改訂版として)出版された。
  • F1(1623年、Q2の230行を削り、80行追加):演出台本版。劇団保管の演出台本にQ2を参考にして制作された。

ウィキペディアより)

 

ja.wikipedia.org

 

以前は海賊版じゃないの?と言われたQ1ですが、最近はそうではなく、シェイクスピア自身が改訂した可能性もあると言われているようです。

そんなわけでQ1は、いつも慣れ親しんでいるハムレットの半分くらいの長さになっています。

 

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とはいえこの長さ。

 

今回「Q1」を翻訳してくださった松岡和子さんは、Q2とF1を併せた版をちくま文庫で『ハムレット』として翻訳されています。

松岡和子さんが翻訳したQ1も、ぜひ書籍化してほしいです。

 

Q1は物語が少し異なる箇所があり、場面の順序も『ハムレット』とは違っているところがありました。

人物名の表記は、安西徹雄さんの翻訳(光文社古典新訳文庫)に基づきます。

 

今回印象に残ったのは下記のシーン。

 

【レアティーズがフランスへ旅立つシーン(第1幕第3場)】

 

 レアティーズ、ポローニアスからお小遣い受け取る時、お札だけ見たときは受け取ろうとはせず、結局なんだかんだお財布ごともらっちゃう動き、ちゃっかりしてて可愛いです。

 


ハムレットが亡霊と話すシーン(第1幕5場 )】


 見張りやホレイショにも亡霊が見えてるはずなのに、観客にはその姿は見えず、ハムレットと2人になって初めて亡霊の姿が出る演出が良いと思いました。

 それまでは見張りもホレイショも、誰に向かって喋ってるのか分からなくて、ホントに誰かいるの?と観客であるこちらが不安になります。

 

 ハムレット役の吉田羊さん、低音の声がとても素敵。

 

 そして亡霊の声だけエコーかかってるの、不気味さが増してなんか良いですね。

 

 

【ポローニアス、レナルドーに手紙を託すシーン(第1幕6場)】

 

 安西徹雄さんの翻訳では、ポローニアスの「どこまで話したっけ?」というくだりはなかったのですが、ここではちゃんと入っています。なんか嬉しい。

 

 それにしてもQ1の『ハムレット』はこんなに短くされてるのに、大抵の上演ではカットされるレナルドーのシーンがあるのが不思議です。こういう笑いを取れそうな場面は、役者にとっても削りたくなかったのかな、と想像します。

 ここでのポローニアスとレナルドーとのやりとりを見ると、この後ポローニアスが何となく憎めなくなってきます。レナルドーがお金と手紙をレアティーズに渡すというお使いを頼まれるだけのシーンなのですが、レナルドーの口調からはレアティーズへのリスペクトが感じられて、レアティーズの人望がうかがえます。

なかなか好きな場面です。

 

 

【オフィーリアに尼寺へ行けと言うシーン(第1幕第7場)】

 

 ・ハムレット(吉田羊さん)はオフィーリア(飯豊まりえさん)よりも小柄なんですね。

 ハムレットがオフィーリアと話す時、またローゼンクランツとギルデンスターンと話す時など、時々女性の声に戻るというか、高音で喋るのがやや気になりました。

 本心と狂気を使い分ける手法なのかもしれません。個人的には真面目なハムレットの声のトーンが素敵なだけに、そんなに笑いを取りに行かなくていいのよ、という気持ちになります。


 ・オフィーリアがハムレットにもらった贈り物がウサギのぬいぐるみなのが可愛い。

 その後受け取ったハムレットに首もがれてるけど。

 

 ・旅役者のさわりの芝居を聞いてるハムレット、体育座りしてて可愛すぎないか。

 今回はお芝居のさわりよりもこのポーズの方がポイント高かったです。

 


ハムレット、芝居を見る叔父を観察してほしいとホレイショに頼むシーン(第2幕第2場)】

 

 ホレイショ、ハムレットに褒められて言葉を失いつつ、照れて本で顔隠してるのが大変に可愛いです。

 なぜホレイショは最初からずっと本持って登場するのだろうと不思議でしたが、このためだった(?)んですね。

 

 

【王様、后の前で芝居をしてもらうシーン(第2幕第2場)】

 

・これから始まる劇中劇のあらすじを見せるシーン、観客から見ていると何が言いたいのかよくわからないこともあるのですが、今回は一場面ずつ、カーテンで隠したり開けたりしながら見せる演出でした。これ、すごく分かりやすい。

 もう、この時点で王様役が暗殺される話じゃん、っていうことが丸わかりだけど。

 

ハムレット、オフィーリアの膝で寝ませんでした。ここでのハムレットは、オフィーリアの膝枕で劇を見るのが当たり前かと思っていたのですが、そうじゃないこともあるんですね。そういえば、吉田鋼太郎さん演出の『ハムレット』でも、ここでは膝枕をしていませんでした。

 

 

ハムレット、ポローニアスを殺すシーン(第2幕4場)】


 Q1と従来の『ハムレット』の大きな違いは、ここでお母さんに王様を殺した犯人を明かしてしまうところです。

 今まで前の王様(ハムレットの父親)が殺されたことを知るのは、ハムレットとホレイショだけだったのに、Q1では味方が増えてすごくいいと思います。

 ただ、苦しい胸の内を話したからか、こころなしか、ハムレットがお母さんを責めるのも、マイルドというかおとなしめな気がします。

 

 

【オフィーリア、狂気の姿で兄の前に現れるシーン(第2幕第6場)】

 

 狂ったオフィーリアが楽器を持って現れる演出を初めて見ました。茫然自失といった感じが現れていて良いです。

 それにしても、彼女の後をシスターっぽい出で立ちの女性たちが付いてまわるのがなんとなく不吉というか、不気味です。お目付け役なのかもしれないけど、これからオフィーリアに降りかかる不幸を先回りしているように見えました。

 

 

【墓掘りとハムレットが会話するシーン(第2幕第9場)】

 

 墓掘り同士がクイズを出したり、墓穴を掘りながら歌ったり、通りがかったハムレットと王様の道化だった男性の思い出話をしたり、意外と長いシーンだと思うのですが、ここのシーンもQ1ではカットされていません。役者も、このシーン好きなのかなあと思って見ていました。

 そして墓掘りの放り投げる髑髏が、観客席のギリギリまで飛んできてドキドキしました。

 

 

ハムレット、レアティーズと闘うシーン(第2幕第10場)】


 試合のシーンは、女性らしい立ち居振る舞いで優雅なハムレットです。試合が始まる前の構えとか。

 それと引き換えにこれは仕方がないことなのでしょうが、試合は軽めというか、お芝居的でやや迫力に欠ける印象を受けました。

 

 そして母が死んだのが叔父のせいだと分かった途端、なんで叔父さんはハムレットに自ら殺されに行ってるの?笑

レイアティーズが謀略のこと暴露しちゃったから、観念しちゃった?

殺されそうなんだし、もう少し悪あがきしてもいいんじゃないかなあと感じました。

 

好き勝手に書きましたが、Q1はQ1でとても良かったです。

 

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またどこかで演じてもらえることを楽しみにしています。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。