おはようございます、ゆまコロです。
大石直紀『杉原千畝』を読みました。
「ユダヤ難民との話し合いのことをかいつまんで伝えると、
「『ヴィザ不要』と書いた紙は、ヴィザとは言えません」
最後に千畝はそう付け加えた。
「ソ連の占領が完了すれば、誰もこの国から出られなくなります」
ヤンが苦渋に満ちた表情を向ける。
「オランダ本国はドイツに占領されましたが、私はここを出て故郷に戻れる。しかし、あのユダヤ難民たちは、今ここを出なければ、どこへも行けなくなってしまう」
そこまで話すと、ヤンは、壁に貼られた世界地図の前に千畝をいざなった。
「オランダ領ギアナは、ここです」
ヤンは、南アメリカ北東部を指さした。
「そして、キュラソーは、ここです」
続けてカリブ海に指を動かす。
「キュラソーは、岩だらけの小島です。当然、そこに向かう直行便などありません」
地図に近づき、キュラソー島の位置を確認すると、千畝は、そこからアメリカ大陸へ視線を動かした。さらに、西側の太平洋に目を移す。日本が小さく描かれ、その西側に広大なソ連の領土が広がっている。
「ソ連と日本を通過したあと、ユダヤ難民は『途中経由地』としてアメリカに逃げることができる。そういうことですか?」
「はい」
「しかしヤン、あれはただの紙切れにしか過ぎません」
「そうですね」
ヤンはうなずいた。
「なんの値打ちもない、ただの紙切れかもしれない。しかし、それで彼ら難民が脱出できれば、オランダの植民地には入国できる。理屈は通るはずです」
「ええ…。確かに理屈は通ります。ただし、そこまでたどり着ければの話です」
「確かに」
ヤンは薄く笑った。
「でも、それが今私にできる限界です」
「それは、ただ体裁を整えているに過ぎません」
「ええ。その通りです。でも、それでいいのです」
「それでいい…?」
千畝が顔をしかめる。
「センポ…、私は所詮、体裁を整えるための形だけの領事なのです。その任務を果たすためだけにここにやってきました。失うものなど何もないのです。いつ首になっても構わない。しかし、これで…、私もやっと言える気がします」
千畝に向かってヤンは微笑んだ。
「私がオランダ領事だと」
目の前に立つ素人外交官の顔を、千畝はまじまじと見つめた。
本当の外交官であれば、自分の身を危うくするかもしれない、こんな奇策を実行することなどなかっただろう。ヤンはただ、難民を救いたいという一心だけで動いているのだ。
心が動いた。ヤンの勇気ある行為を無駄にすべきではないと思った。しかし、日本の外務省が通過ヴィザの発給を許可するとは思えない。
ーどうしたらいいのだ。
千畝は自問した。」
映画を観ようと思っていたけど、見逃したので本を読みましたが、さすがに怖いシーンが多かったです。
いつかリトアニアに行ってみたいです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。