ニジタツ読書

読んだ本の感想です。時々美術館のことなども。面白い本がないかな~と思ったらご参考までに。

ト―ベ・ヤンソン『ムーミンパパ海へいく』

おはようございます、ゆまコロです。

 

ト―ベ・ヤンソン、小野寺百合子(訳)『ムーミンパパ海へいく』を読みました。

 

このタイトルを見たとき、「ムーミンパパは一人でニョロニョロと一緒に船に乗ってどこかへ行ってしまうような人(ひと?)だから、またどこかへ一人出かけたのかな」と思いました。

でも、そうではなかったです。今回海へ行くのは、ムーミンパパとムーミンママ、ムーミントロールとミイも一緒でした。

(ミイはこの話から、この家の養女になっていました。)

 

夏の終わり、灯台のある小さな島にやってきたムーミントロールたちは、そこで生活を始めます。

 

「ま夜中に目をさましたムーミントロールは、横になったまま、じっと耳をそばだてました。だれかが彼をよんだのです。けれど、ただの夢だったのかもしれません。そこははっきりしませんでした。夜は夕がたとおなじようにしずかで、青白い光がいっぱいでした。満月にちかい月が島のま上にありました。

 

 ムーミントロールはパパとママを起こさないように、できるだけしずかにベッドをぬけ出してまどのところへいって、そっとまどをあけて外を見ました。浜べにくだけるかすかな波音がきこえ、さびしく海の上にうかんだ黒い岩が見えました。ずっと遠くで一わの鳥が鳴きました。島はかんぜんにねむっていました。

 

 いいえ  ―なんだかしりませんが、下の海岸でおこっていました。だれかが、遠くのほうで、いそぎ足のギャロップで水の中をバシャバシャわたっています。—下の方でなにかおこったのでした。

 

 ムーミントロールは、ひどく興奮しました。なんだかわかりませんが、とにかくほかのだれでもない、自分に関係したこと、自分だけに関係のあることだと確信しました。下へおりていって、自分でようすを見なくてはなりません。なにものかがムーミントロールに告げたのでした ―これはだいじなことだから、おまえは夜のやみの中に出ていって、海岸でなにかおこっているか見なければいけないって。だれかがムーミントロールをよんでいるのでした。おそれてなんかいられません。

 

 ムーミントロールは戸口まできましたが、階段のことを思いだしてためらいました。夜のまわり階段が、こわかったのです。 —昼なら、考えるひまもなくかけあがることだってできたのですが。そこで、へやにひきかえして、テーブルからカンテラを持ち出しました。マッチはマントルピースの上にありました。

 

 彼がへやを出て戸をしめると、塔は目の下に深い暗い井戸のように口をあけていました。目には見えなくても、かっては知っていました。カンテラのほのおは、はじめはちらちらと、明るくなったり暗くなったりしましたが、そのうち安定した燃えかたになりました。ムーミントロールカンテラを下において、勇気をふるいおこして見まわしました。

 

 カンテラを持ちあげると、光はありとあらゆるかげぼうしをよびさまし、彼のまわりをゆらゆらとうごきました。たいていのかげぼうしは、ふしぎな形をしていて、がらんどうになっている燈台の内側を、あがったりさがったりしてちらつくのでした。きれいなながめでした。階段は下へむかってどこまでもおりていきます。まるで歴史以前の動物のがいこつのように灰色で、いまにもこわれそうでした。すその方は、暗やみの中にきえていて見えません。ムーミントロールの歩く一歩一歩ごとに、まわりのかべの上ではかげぼうしがおどりまくりました。こわいと考えるには美しすぎました。

 

 とうとうムーミントロールは、カンテラをしっかりつかんで階段を一歩一歩おりていって、燈台の下のどろだらけの床につきました。とびらはいつものようにきしんで、ひどく重く感じられました。彼は外の岩の上に、うそのようにつめたい月の光をあびて立ちました。

 

(生きるって、すばらしいことだなあ。どんなものでも、なんの理由もなしにいっぺんにかわることがあるんだねえ。階段がきゅうに美しくなったもんだから、あき地のことなんか、もうまるきり考えたくなくなったぞ)

 

と、ムーミントロールは思いました。」(p104)

 

夜、一人で外へ出て、「うみうま」(体に花の模様のあるおしゃれな馬。架空の動物と思われる。)やモランと遊ぶムーミントロールが楽しそうです。

 

一方、ムーミンパパは、みんなのために家具を作ったり、灯台に明かりをともそうとしたり(ほとんど物語の終盤まで付かない)、魚を釣ろうと奮闘するのですが…。

 

「ちびのミイは、ふたりの冒険の話を聞くと、ちょうど食べかけていたサンドイッチをテーブルに置いていいました。

 

「さあ、おふたりさん、これからが楽しみよ。あの網をきれいにするのに、三日や四日はかかるわ。あの茶色い海草は、悪魔みたいにしがみついてはなれないもの。網を一日じゅう海にほっぽっておくから、こんなことになるのよ」

 

「それがどうした」

 

ムーミンパパがいいかけたので、ママはいそいでいいました。

 

「ひまはいくらでもあるんですもの。お天気さえよければ、なかなか楽しい仕事かもしれませんよ…」

 

そのとき、ちびのミイが提案しました。

 

「きっとあの漁師が、きれいに食べてくれるわ。海草が大すきだもの。へへん」

 

ムーミンパパはがっかりしてしまいました。あのランプのみじめなしっぱいにつづいて、またこの海草ではひどすぎました。働いても働いても、うまくいかないのです。ものごとがみんな、指のあいだからぬけていってしまうのでしょうか。ムーミンパパの思いは、つぎからつぎへとうつっていき、さとうがとっくにとけているのに、スプーンでちゃわんをいつまでもかきまわしていました。」(p123)

 

パパの提案で孤島に来たとは言え、「働いても働いても、うまくいかないのです」というところに同情しました。ちょっと気持ちが分かります。

 

また、平素より息苦しそうなムーミンママの様子も、印象的です。

 

「みんながへやにはいってきたとき、ママはテーブルのそばにすわってタオルを作っていました。

 

「いったいぜんたい、おまえはどこへいっていたんだ」

 

と、ムーミンパパはさけびました。

 

「わたし?空気をすいに、ほんのちょっと散歩してきただけ」

 

と、ムーミンママはむじゃきにいいました。

 

「しかし、おまえ、わしたちをこんなにまでおどろかすのは、よくないね。わしたちが夕がた家に帰ってくると、おまえはいつもここにいる  ーこういうきまりになっているんだ。それをよくおぼえておきなさい」

 

 こう、パパはいいました。ムーミンママはため息をつきました。

 

「それがたまらないのよ。たまには変化も必要ですわ。わたしたちは、おたがいに、あまりにも、あたりまえのことをあたりまえと思いすぎるのじゃない?そうでしょ、あなた」

 

ムーミンパパはいぶかしげにママのほうを見ましたが、ママはわらってぬいものをつづけるだけでした。」(p209)

 

これまでムーミンママは保守的な女性かと思っていましたが、なんだかそうでもなさそうな一面が見えたこの、雲隠れ的なエピソードが好きです。

 

一緒にいることの気詰まり感が随所に色濃く出た話でしたが、これは家族としての成長を表しているのかな、とも思いました。

 

巻頭のフィンランド湾のイラストを見ると、ト―ベさんも海へ出て風景を描いたのかと思い、なんだか晴れやかな気持ちになります。

 

※下記のホームページで紹介されているのと、同じイラストです。

(126)日本のムーミンを追うフィンランド - ムーミン公式サイト

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

新装版 ムーミンパパ海へいく (講談社文庫)

新装版 ムーミンパパ海へいく (講談社文庫)