おはようございます、ゆまコロです。
川端康成『みずうみ』を読みました。
好みの女性を見つけると、その後をついて行ってしまうという男性が主人公です。
その行動は社会規範的にどうなのか、ということはとりあえず置いておいて、ところどころに出てくる、湖の描写が綺麗です。
先生と教え子が恋仲になったり、従姉妹に恋をしたり、好きな相手が戦死したりと、物語の長さの割に、多くの複雑な人間模様が描かれますが、私が好きなのは、有田老人とその愛人・宮子さんの関係です。
宮子さんが自分の家の女中・たつに嫉妬の感情を抱く場面が印象深いです。
どうせしれたものだと、宮子は高をくくっているが、たつが塵をつんでゆく、蟻のような根性には、高をくくっていられなかった。とにかくたつの生活は一種の健康で、宮子は一種の病気にちがいなかった。宮子の若い美しさは消耗品であるのに、たつは自分のなにも消耗しないで生きているようであった。
このジェラシーの表現が、なんだか女性っぽくて凄いなと思いました。
また、主人公の銀平が、教え子との恋に終止符を打つシーンも良いです。
「さようなら。」と遠い久子に言った。久子とのここの思い出が新しく建つ家に住む人を幸福にしてくれればいいと思った。かんなの音はそのように銀平の頭のなかでこころよかった。
銀平は人手に渡ったらしい「草葉のかげ」へもう来なくなった。じつは久子が結婚をして、ここの新居に移るとは、銀平は知るよしがなかったのである。
正直なところ、銀平さんを見直せたのはこの諦めの場面くらいなのですが。
絵になりそうな場面はところどころありますが、そんな中でも情景を思い浮かべると素敵と思ったのは、終盤、銀平に目をつけられた女性の一人・町枝さんに、彼が蛍籠を渡すシーンです。(彼女のベルトに引っかけてあげる、というのが絵的に良いと思いました。)
しかし、そんな綺麗な場面で物語を終わりにしないところも、川端先生のセンスなのかなと思います。
昭和29年、著者が54歳頃の作品です。
一回目に読んだ時はぴんとこなかったのですが、二回目を読んだ時はなんだか心に響きました。面白かったです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。