ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

浅田次郎『日本の「運命」について語ろう』

おはようございます、ゆまコロです。

 

浅田次郎『日本の「運命」について語ろう』を読みました。

 

歴史小説に苦手意識がある、と言ったら、母がおすすめしてくれた本です。

この150年くらいの間で日本がどのように変わったか、ということと、「なぜ歴史を学ぶのか?」という疑問に対する著者なりの答えが、浅田先生の講演会の記録としてまとめてあります。

 

議事録のような語り口なので、最後までたどり着けるか心配でしたが、歴史の先生の楽しい脱線のような豆知識が満載で面白かったです。

 

好きなのは、伊能忠敬のお家のお話です。

 

 

 読者の方の中には「ウチの兄貴より私のほうが絶対に出来がいい」と思っている方がいらっしゃると思います。長男が必ずしも優れているわけではないのに、暗黙のうちに、家を継ぐのは長男と決まっている。日本の伝統、というより、実はこれは農耕民族の伝統です。

 

 つまり農耕民族にとっては強力なリーダーシップだとか、ずば抜けた能力などはあまり必要ない。それよりも一族にとって怖いのは、田畑をめぐる相続の揉(も)め事でしょう。

 

 相続人を長男と決めておけば揉め事を避けられる。農耕民族は「地域の中で協力してうまくやっていく」ことが大事なので、突出したリーダーシップは必要ないのです。農耕民族にとっては、長男相続がいちばん適しているようです。

 

 日本でも地域的には長子相続という場所もあります。男女にかかわらず、先に生まれた者が相続する。だから女子でも相続権をもつという地域があるんです。実はこれがいいんですよ。長女に婿をもらうとなると、親が有能な人間を選ぶことができます。これはいちばん手堅い相続のような気がしますが、どうでしょうか。

 

 長子相続の例で有名なのは、伊能忠敬(いのうただたか)です。江戸時代、日本で初めて実測による全国の正確な地図を作った人ですね。

 

 彼が生まれた千葉県・九十九里のあたりは長子相続でしたから、長女が忠敬を婿に取って相続し、彼は伊能家を継ぎました。伊能家は現在の香取市佐原で酒や醬油を作っていましたが、当時は家勢が衰退していて、有能な忠敬に期待をかけたわけです。

 

 その期待に違わず、忠敬は家業を伸ばし名主になります。そして数え五十歳で隠居して、自分の好きな天文学や測量の道に邁進(まいしん)するわけです。

 

 こうした例もありますが、日本は基本的に長男が相続します。(P132)

 

 

他にも、東京と大阪の文化土壌が違う理由や、北町奉行所と南町奉行所の勤務体制など、ちょっと前に決められたことが現在も踏襲されていることが分かり、興味深かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。