こんばんは、ゆまコロです。
いしわたり淳治『うれしい悲鳴をあげてくれ』を読みました。
短編とエッセイです。旅行に行く時などに読むと良いと思います。
作者が仔犬を見た時の話が好きです。
「ここからは完全にペット素人のコメントになってしまうかもしれないけれど、勘弁していただきたい。
まず、仔犬は小さい。犬種がトイプードルで親犬もかなり小さい身体だったからなのかもしれないけれど、僕の想像をはるかに越えて小さかった。寿司を握る手つきの中に隠れてしまうサイズである。「生まれたてはネズミみたいだよ」とは聞いていたが、あれではネズミの中でも虚弱なほうのネズミではないか。関節はどこも不安定で、全身が細かに震えている。短かすぎる体毛はあってもなくてもいいほどの超無意味な役割。恐る恐る触ってみると、案の定、ばっちり肌が冷たい。うわ、危うい!危うすぎる。大丈夫か、おい!フリースとか着る?チョコ食べる?おい!寝たら死ぬぞ!雪山で遭難したかのように声をかけた。
鳴き声も「ピーピー」である。犬のくせに「ピーピー」。まだ目も見えず、ピーピー鳴きながら母犬を探して弱々しくもがく。まるでドン曇りの日にソーラーパワーで駆動しているようだ。腹の皮を下のほうにスライドさせてそこに単四電池を二本入れてあげたい。掻きだす手足は三回に二回は空振る。打率三割三分三厘。城島以上イチロー未満。これぞまさに無駄なあがきである。広辞苑の「無駄なあがき」の欄にこいつの名前を載せてあげたい。
無駄にあがき、もがいて、どうにか辿り着いた母犬の懐でも乳首を上手く吸えずに今度は口先が空中をさまよう。この期に及んでもまだ何度も失敗する。ああ、もう。それ、あんたの唯一の仕事だろ?動作のいちいちが鈍臭くて、なんていじらしい。がんばれ、がんばれ!そして、気がつくと僕は仔犬の写真を撮りまくっていたー。」
「はやく人間になりたい」より
これを読んでから、仔犬を見るたび単四電池を連想してしまいます。
最後まで読んで下さってありがとうございました。