おはようございます、ゆまコロです。
都甲幸治『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』を読みました。
本書は、翻訳家であり、早稲田大学文学学術院教授でもある都甲幸治さんが、世界の八つの文学賞を選び、書評家、翻訳家など本にまつわる職業の人々に1つの賞につき1冊選んでもらって鼎談(三人で話すこと)する、という試みの本です。
取り上げられている八つの文学賞は、ざっくりまとめるとこんな賞です。
1.ノーベル文学賞
正式名称:ノーベル文学賞
開始年:1901年(1年に1度)
賞金額:その年によって異なるが、一億円を超えることが多い。
受賞対象:作家。
特徴:
・「人類にとっての理想を目指す、世界でも傑出した文学者」が選考基準。人権擁護、国内で迫害されている人を描くものが多い。
・受賞者に高齢の人が多い。
・選考委員はヨーロッパの主要言語しか読めない人が多い。そうした言語で書いている人が圧倒的に有利。北欧諸国出身だとさらに有利。
そうじゃない作家は、本人が非常に英語ができるか、あるいは翻訳版がとても優秀だと獲りやすくなる。
2.芥川賞
正式名称:芥川龍之介賞
主催:公益財団法人日本文学振興会(日本)
開始年:1935年(1年に2回)
賞金額:100万円。
受賞対象:作品。
特徴:
・芥川龍之介の没後に友人の菊池寛が文壇を盛り上げるために作った賞。
・文芸誌に載った純文学の作品が対象の新人賞。
・歴代の選考委員がほとんど作家しかいない。
3.直木賞
正式名称:直樹三十五賞
主催:公益財団法人日本文学振興会(日本)
開始年:1935年開始(1年に2回)
賞金額:100万円。
受賞対象:作品。
特徴:
・大衆小説やエンタメ小説が受賞する。
・作家のそれまでの実績に対しての表彰でもある。
4.ブッカー賞
正式名称:マン・ブッカー賞
主催:ブッカー賞財団(イギリス)
開始年:1968年(1年に1度)
賞金額:50,000ポンド。
受賞対象:作品。
特徴:
・フランスのゴンクール賞に対抗してイギリスで作られた賞。
・英語で書かれていたら何でもノミネートされる。
・選考委員は大学教授、文芸評論家、政治家、芸能人など。毎年変わる。
・一次選考に残った作品を「ロングリスト」として公開、その後最終選考に残る作品を「ショートリスト」として発表。受賞作が決まる十月の三か月前から販売促進などがされ、何カ月もの間イベントとして機能している。
5.ゴンクール賞
正式名称:ゴンクール賞
主催:アカデミー・ゴンクール(フランス)
開始年:1903年(1年に一回)
賞金額:10ユーロ。
受賞対象:作品。
特徴:
・フランスで一番古い文学賞。
・ゴンクール兄弟(作家)の遺産によって創設。
・40代くらいの若めの作家が獲りやすい。
・詩や批評の部門もある。
6.ピュリツァー賞
正式名称:ピュリツァー賞フィクション部門
開始年:1917年(1948年にフィクション部門という名前に変更、1年に一回。)※小説の初受賞は1918年。
賞金額:3,000米ドル。
受賞対象:作品。
特徴:
・ジョセフ・ピュリツァー(ジャーナリストで新聞社をやっていた)が作った賞。
・文学のほか音楽、報道など広い範囲の人たちに与えられる。
・選考委員はもいろいろな分野の人の集まり。受賞者でその後選考委員となったジュノ・ディアス(『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』)いわく、“文学に全然理解がない人たちを説得しないと、賞をあげられない。”
7.カフカ賞
正式名称:フランツ・カフカ賞
開始年:2001年(1年に一回)
賞金額:10,000米ドル。
受賞対象:作家。
特徴:
・カフカはドイツ語作家だが、領土的には今日のチェコ生まれ。第二次世界大戦後にドイツ系住民の強制移住があり、ドイツ語作家自体が実質的にいなくなり、社会主義の時代にはカフカは退廃的な作家と見なされてチェコ国内ではあまり読まれていなかった。民主化以降、カフカを再評価し、プラハのドイツ語文学を復興させようという主旨で設立されたのが、フランツ・カフカ協会。
・フランツ・カフカ協会はユダヤ系の人が中心になっている組織のため、受賞者もユダヤ系の作家が多い。
・少なくとも著書が一点以上チェコ語で刊行されていなければならない、という決まりがある。
・2004年にエルフリーデ・イェリネクがカフカ賞とノーベル文学賞を獲り、2005年にハロルド・ピンターもカフカ賞とノーベル文学賞と、二年連続で同じ人が二つの賞を獲ったことから、「ノーベル賞の一歩手前の賞」と噂される。次の年、村上春樹はカフカ賞を獲ったが、ノーベル文学賞は獲れなかった。
8.エルサレム賞
正式名称:社会の中の個人の自由のためのエルサレム賞
開始年:1963年(二年に一回)
賞金額:10,000米ドル。
受賞対象:作家。
特徴:
・ややヨーロッパ中心的、大国中心的な受賞作。アジアで獲得したのは、村上春樹のみ。
・「わからないものをわかろうとする」作品が選ばれるのが特徴(倉本さおり)。
本書で紹介されている24冊はどれも魅力的で、気になるタイトルが目白押しでした。
賞の傾向から、好みの本を探すのも楽しそうです。
最後に、「文学賞に縁のない作家たち」という藤井光さんのコラムの中で、ゆまコロの好きなポール・オースターについての記述があったのでご紹介します。
ポール・オースターも、その人気とは裏腹に、母国アメリカではあまり賞に恵まれていない作家である(フランスでは受賞歴あり)。簡素で美しい文体と実験性も兼ね備え、人と他者との関わりを描くオースターの重要性は誰もが認めるところであり、その功績を讃えて功労賞もあちこちから授与されているが、小説がアメリカで文学賞を獲得したことはこれまでない。
(p190)
賞に恵まれてもそうでなくても、応援したい気持ちは満載です。
次に何を読もうかとわくわくしてくる本でした。
最後まで読んで下さってありがとうございました。