ニジタツ読書

読んだ本の感想です。胸に刺さった言葉をご紹介します。時々美術館のことなども。

新海誠『小説 天気の子』

おはようございます、ゆまコロです。

 

新海誠『小説 天気の子』を読みました。

 

ーそうか。皆が取材でなんでも話してくれるのは、だからだ。女子高生も大学の研究者もいつかの占い師も、相手が夏美さんだからこそあんなふうに喋ったのだ。誰のことも否定せず、相手によって態度も変えず、きらきらした好奇心で相づちをうってくれるこの人だから、荒唐無稽なことでも皆すんなりと話せてしまうのだ。

 そうか、だからだ。僕はまた理解する。どんなに叱られてもちっとも辛くない理由。僕が変化したわけじゃない。相手がこの人たちだからだ。須賀さんも夏美さんも、僕が家出少年であろうと関係ないのだ。当たり前の従業員として、当たり前に頼ってくれるのだ。僕を叱りながら、お前はもうちょっとマシになれる、彼らはそう言ってくれているのだ。その瞬間だけがチクリと痛い注射のように、それが僕の体を強くしているのだ。

(p63)

 

主人公が仕事を見つけ、動き出すこの辺りの展開が好きです。

 

   少年鑑別所から解放され、ようやく島に戻る頃には、家出をしてから三カ月が過ぎていた。気づけば夏の盛りは過ぎ、秋の気配が漂い始める季節だった。すごすごと戻ってきた僕を、両親も学校も不器用にー それでも温かく迎え入れてくれた。あれほど窮屈だった父も学校も、戻ってみればそこは当たり前の生活の場所だった。僕自身が不完全であるのと同じように、大人たちもまた等しく不完全なのだ。皆がその不完全さを抱えたまま、ごつごつと時にぶつかりながら生きているのだ。僕は、気づけばそれをすんなりと受け入れていた。そのようにして、僕は島での高校生活を再開した。

(p274)

 

みな不完全である、という気づきを得るためには、自分のことが嫌いになったり、自分のことを知ろうとしたりして、その先で他者と触れ合ったり衝突したりといったことが必要不可欠なんだろうなと思います。

ただ、どうして主人公は生まれた土地を離れたのか、直接の理由がよく分からなくて少しもやもやしました。

(映画はまだ未視聴なので、そちらの方で明らかになっていたらすみません。)

 

「だって、あの時俺たちはー」

「お前たちが原因でこうなった?自分たちが世界のかたちを変えちまったぁ?」

 心底呆れたという様子でそう言って、ようやくディスプレイから顔を上げて中年は僕を見る。オシャレ風眼鏡を頭に上げて(でもきっと老眼鏡だ)、軽薄そうな細い目をさらに細める。

「んなわけねえだろ、バーカ。自惚れるのも大概にしろよ」

 須賀さんだ。相変わらずのタイトなワイシャツ姿で、ダルそうな口調で僕をなじる。

「妄想なんかしてねえで、現実を見ろよ現実を。いいか、若い奴は勘違いしてるけど、自分の内側なんかだらだら眺めてもそこにはなんにもねえの。大事なことはぜんぶ外側にあるの。自分を見ねえで人を見ろよ。どんだけ自分が特別だと思ってんだよ」

(p284)

 

最後の、何気なく放たれた須賀さんのセリフがこの本で一番好きです。

 

 先日、僕がこの解説に何を書けばいいか迷っているとこぼすと監督からこんな返事がきた。「僕としては、洋次郎さんがなぜ『天気の子』にこれほどの力を注いでくださったのか、その不思議を知りたいです。」と。

 なぜか考えてみる。その結論は二秒で出た。それは新海誠の作品だったからだ。そして新海さんが僕のことを信じてくれたから。これに尽きる。僕は平気で人を選ぶ。みんなに優しくなんてできないし、身体は一つしかない。限られた中で自分の持っている力を発揮するしかない。もちろんそんな僕を嫌いな人もたくさんいるだろうし構わない。でも信頼できる人と出会い、何か一緒に新しいモノを作る機会を得られるならそんな嬉しいことはない。

 何かを作る時、自分の愛する作品に誰かの意見や想いを反映させるというのは意外に、容易ではない。分野は違っても「モノ創り」をする人はきっと理解できるだろう。自分だけが知っているこの物語、自分こそがこの作品の正解を知っている。そう信じ創作をする人もたくさんいるだろう。でも監督は自分が信じた人の言葉を信じる。まっすぐ信じる。そうすると、僕は自分の持っているすべてを渡さないと気が済まない衝動に駆られるのだ(すべてを出せたのか自分では分からない)。

(p304)野田洋次郎(RADWIMPS)による解説より。

 

特にクリエイティブな仕事をしていない自分にも、自分の作品に違う人の意見を反映させることの難しさ、というのが、リアルだと思いました。 

 

欲を言えば、もうちょっと帆高の住んでいる島の詳しい描写が欲しかったです。

(「君の名は。」の自然の風景が良かったなと思っていたので。)

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。