ニジタツ読書

OLのゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

木村靖ニ『第一次世界大戦』

おはようございます、ゆまコロです。

 

木村靖ニ『第一次世界大戦』を読みました。

 

これまで私が戦争の本を読む時は第二次世界大戦時のものが多く、あまり馴染みがなかったため手にとってみました。

分かりやすい本を探しているときに、このページでおすすめされていたのを見たからです。

 

my-best.com

 

  皇位継承者フランツ=フェルディナントは、格下の貴族の娘との身分違いの結婚のため、子供には帝位継承権が認められず、自身の傲慢な性格もあって、二重帝国支配層内部では嫌われていた。彼は、ドイツ人・ハンガリー人の二重支配体制という帝国の構造に、南スラヴ系諸民族に自治を認めて第三の柱を作り、三重支配体制として安定させる構想を持っていた。そのため、既得権を脅かされることになるハンガリー人から警戒されたばかりか、セルビアからも民族分断の固定化をはかる人物として危険視された。

 一九一四年六月の彼のボスニアでの軍事演習視察が、セルビアの急進的民族主義者を刺激し、彼らの暴走を招く危険があることは、当時一部で認識されていた。オーストリアとのさらなる関係悪化を懸念したセルビア首相パシッチも、曖昧な形ではあったが、オーストリア側に警告を発していた。実際、暗殺当日、セルビアから来た者も含めた数人のボスニア出身青年の暗殺グループが、サレイエヴォ市内各所に待機していた。サライエヴォ到着早々、その一人によってフェルディナント夫妻の車に爆弾が投げつけられ、夫妻は無事だったものの、随行車の乗員が負傷する事件が起こった。その後も視察を続けた夫妻は、負傷者を見舞いに行こうとして予定外のコースを指示した時、次の暗殺者一九歳のプリンツィプの銃弾の犠牲になった。

 ヨーロッパ各国政府は暗殺行為を非難し、オーストリア帝国政府内でも、ハンガリー首相ティサを除いて、セルビアへの懲罰軍事行動支持が多数をしめた。かねてから強硬な対セルビア一撃論者であった参謀総長コンラート・ヘッツェンドルフも― 彼は一九一三年一年間で二五回も対セルビア先制攻撃を進言して、皇帝の叱責を受けていた ―、即時開戦を主張した。

 しかし、セルビア支持が予想されるロシアの介入を阻止するには、同盟国ドイツの支持が不可欠であり、その意向を確認するため、七月はじめ、外相特使がベルリンに派遣された。ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世は、「ドイツは同盟義務と旧来の友好関係に忠実にオーストリアを支持する」と確約し、ベートマン=ホルヴェーク宰相や軍首脳との協議でもこの方針が了承された。この無条件支持は「ドイツの白紙小切手」と呼ばれ、ドイツが開戦に大きな責任があることの重要な根拠とされている。(p46)

 

ドイツはこの戦争の目的を、ヨーロッパの覇権(ヘゲモニー)の獲得と、イギリスと並ぶ世界強国の地位を地位を目指すこととしていたようです。

フランツ=フェルディナントの歌、昔好きだったなあと思い出していました。

 

「戦時財政の財源」という項目も興味深かったです。

 

 当然のことだが、戦時財政の規模はどの国でも巨額に上った。ドイツを例に取れば、戦前最後の平時の年であった一九一三年の帝国政府の税収は二三億マルクで、それにたいし敗戦時の戦費負債は総額一五五〇億マルクになっていた。ドイツは直接税が連邦構成国の財源となり、中央政府の主要財源は間接税から成るという特殊な分配構造になっているため、国民生活に直結する間接税引き上げによる戦時課税には限界があり、不足分は国内外での国債・公債発行で調達する以外にはなかった。通常の租税と国債の比率をどう調整するか、国債発行を主に国内に求めるか、他国の資本市場に求めるかなどは、それぞれの参戦国の状況で違いがある。ドイツは戦費中の租税充当分はわずか三%に過ぎず、ほぼ全額を九回にわたる戦時公債発行によって調達した。大戦前半は中立の立場にあったアメリカ合衆国の市場での公債発行も試みたが、イギリスなどの妨害やアメリカ世論の反独傾向から成功せず、ほとんどが国内での発行であった。オーストリアは、戦時税と公債のほかドイツからの信用供与で切り抜けた。

 

 一方、イギリスは、早くから増税による対応が実施された。労働者など低所得者に配慮して、中・高所得者所得税率を引き上げ、さらに高額所得者には別途特別税を課して、社会的不公平感の高まりを和らげた。こうした方法で戦費の借金を高めないように努めた点でイギリスは際立っており、その結果戦費の二六%を税収でまかない、この率は参戦国中で最も高かった。実際、イギリスは大戦中、資産の平準化が進んだ唯一の国となった。さらに、イギリスは自治領などからも莫大な戦費の支援を受けることもできた。インド帝国の軍事費は、一九一四年の二〇〇〇万ポンドから一八年には七倍の一億四〇〇〇万ポンドに増加しているが、そのほとんどは連合国支援のためのインド軍派遣費であった。にもかかわらず、イギリスはアメリカ市場からもかなりの額を調達しなければならなかった。

 

 金融力の強いフランスは、前半は短期信用で、後半になって公債、増税による調達も併用した。ロシアは国内市場での国債消化は当てにできなかったから、ほぼ全額を英・仏の同盟国で、さらにアメリカでも調達した。(p84)

 

イギリスのお金の使い方のうまさが際立ちます。

また、ロシア革命と大戦との関連も分かりやすかったです。

 

 ブルシーロフ攻勢の成果にもかかわらず、一九一六年後半から、ロシア国内での政治的混乱はさらに深刻化した。開戦から一九一七年まで、首相が四人、内相五人、外相三人、農相四人が交替する状況をみても、政策や方針に一貫性がなかったことは明らかで、実際、場当たり的対応や、各省が相互調整のないままばらばらに対策を出して、混乱を助長していた。皇帝が大本営に詰めている間、ラスプーチンに象徴される首都の宮廷における乱脈や腐敗、ドイツ系出身のため親独的態度を疑われた皇妃への恣意的介入などから、国民の皇帝を見る目は厳しくなっていた。

 

 開戦以来、兵員の動員数は増加の一途をたどり、一六年末には約一五〇〇万人、兵員適格者の四割以上になり、しかも、損失はその三分の一の五四〇万人にも達していた。ロシアが人口大国といっても、この数字は軍だけでなく、経済やロシア社会全体が耐えうる限界が目前にあることを示していた。一九一六年六月、それまで兵役義務を免除されていた中央アジアムスリムに、勤労動員のために徴用命令が出されたのも労働力不足からであった。それに反発して、ムスリムの反乱が中央アジア各地で広まった。ロシア帝国は上と下から解体過程に入った。

 

 皮肉にも、一七年初めには、一部の砲弾生産には余剰がでるまでになり、前線への供給もこの時点がもっとも良好であった。しかし一月、首都では、講和を叫び、パンや燃料を求める十数万人の大衆デモがおきた。実は穀物や石炭も、ロシア帝国全体では極端に不足していたわけではなかった。もともと穀物輸出大国であったロシアは、開戦後、主要輸出航路が遮断されて輸出がとまったため、国内には相当量の蓄積があったのである。とはいえ、穀物・石炭とも産地はウクライナなど南部が中心で、ペテログラードやモスクワなどの北部の大都市消費者への供給は、鉄道がなければ不可能であった。ムスリムの徴用の目的にも、軍事鉄道敷設が挙げられたように、もともと鉄道などの輸送インフラが不十分であったところに、兵員・兵器など軍事輸送が優先されたため、民需用物資の輸送が機能しなくなった。食糧・燃料危機とは、輸送危機にほかならなかった。(p179)

 

資源が豊富な国でも、簡単に食料や燃料の供給が滞ってしまうところに怖さを感じました。

 

筆者は、第一次世界大戦がもたらしたものとして、以下のことを挙げています。

 

 第一に、大戦は列強体制が支配的であった国際関係を否定し、対等な国家から成る国際関係 ―その具体化が国際連盟である― に導いた。ヴェルサイユ条約をはじめとする戦後の一連の講和条約の第一部は国際連盟規約が掲げられている。大戦後の国際体制はヴェルサイユ体制と呼ばれるが、それは国際連盟と一体化した体制を目指したものであった。国際体制の転換は、同時に様々な次元での変動を伴った。たとえば、ヨーロッパ中心主義的世界から多元的世界への転換のはじまりがそれである。この多元的世界には、間もなく、ソ連という異質の次元も加わることになる。

 

 第二に、国際社会の構造単位が、帝国から国民国家に移行したことが挙げられる。これは民族自決権が、国際社会の基本原理と認められたことの結果である。大戦は、ロシア、オーストリアオスマンの三大多民族帝国を解体させ、多くの新興国民国家を生みだした。民族自決権の承認は、当面はヨーロッパに限定されていたものの、植民地や従属地域の民族運動を鼓舞するものでもあった。(p209)

 

こうしてみると、遠い昔の出来事のように感じていた第一次世界大戦も、まだそれほど長い時間は経っていないように思いました。

巻末で紹介されていた、第一次世界大戦を舞台にした文学作品も読んでみようと思います。

 

1.レマルク西部戦線異常なし』(秦豊吉 訳)新潮文庫、一九五五(ドイツの大戦文学。訳文はやや古いそう)

 

2.アンリ・バルビュス『砲火』上下(田辺貞之助 訳)岩波文庫、一九五六(フランスでゴンクール賞受賞)

 

3.カール・クラウス『人類最後の日々』上下(池内紀 訳)法政大学出版局、一九七一

(大戦下のオーストリアをえがいた戯曲の優れた翻訳。当時の事実を素材にしている)

 

4.ロバート・グレーヴズ『さらば古きものよ』上下(工藤政司  訳)岩波文庫、一九九九

 

5.ハシェク『兵士シュヴェイクの冒険』全4巻(栗栖継 訳)岩波文庫、一九七二-七四

オーストリア軍のチェコ人兵士を主人公にした喜劇。多民族構成軍の実態を辛辣にえがいている。)

 

6.エミリオ・ルッス『戦場の一年』(柴野均 訳)白泉社、二〇〇一(イタリア戦線での体験記)

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

第一次世界大戦 (ちくま新書)

第一次世界大戦 (ちくま新書)

  • 作者:木村 靖二
  • 発売日: 2014/07/07
  • メディア: 新書