ニジタツ読書

読んだ本の感想です。胸に刺さった言葉をご紹介します。時々美術館のことなども。

あさのあつこ『さいとう市立さいとう高校野球部(上)』

こんにちは、ゆまコロです。

 

あさのあつこ「さいとう市立さいとう高校野球部(上)」を読みました。

 

ひさびさの、あさのあつこ先生の本です。

 

 家族って、何でこんなに鬱陶しいんだろう。

 ときどき、全部捨てられたらどれくらいすっきりするだろうなってやばいことを考えてしまう。実際、みんながいなくなったら、取り乱しちゃって、必死で捜し回るくせに、な。

 

 おれって、けっこう臍曲がり?でもなあ……。「きみたちは一人じゃない」ってよく言うでしょ。大人って好きだよな、あのフレーズ。

 おれは苦手だ。耳にする度に中耳(ちゅうじ)がむず痒くなる。

 孤立って辛い。おれだって、そのくらいのことはわかっている。中学生のとき、おれは孤立しかかったけれど、しかかっただけで、しなかった。一良がいたし、早雲やポポちゃんもいてくれた。ありがたかった。だから「きみたちは一人じゃない」ってフレーズを全否定する気はさらさらない。この一言に、支えられたやつも、支えられているやつもいるんだろうとは思う。

 けど、浅いよなぁとも思う。

 大人の好む言葉って、概して浅い。

 一人じゃないって、誰かがぶら下がってるってことだ。それに、誰かにぶら下がってるってことでもあるわけでしょ。

 それって不自由だったり、重かったりしないのかなあ。しがらみとか、義務とか、愛情とか、つっかえ棒にもなるし、手枷足枷にもなるような気がするの、おれだけ?(p98)

 

「浅いよなぁ」という言葉がいい。

高校生ながら、自分の感情を動かすものとそうでないものの選択を、自身の判断で出来ている、というような印象を受けました。

 

「おれは諸君に、負け犬に甘んじたまま終わって欲しくない。諸君は若いんだ。根性と気力があれば這い上がって行ける。これから。おれが諸君を徹底的に鍛えて行く。厳しいかもしれん。いや、厳しい。けれど、諸君、これだけは言っておく。おれのやり方に黙ってついてくれば、諸君は勝つことを覚えられる。いいな、負けたままじゃだめだ。弱いやつは駄目だ。負け犬になるな。諸君の年齢で負け犬になったら、一生、負け犬のままかもしれんぞ。それは嫌だろう。だから、おれが、諸君に勝つことの味を教えてやる。もう一度、言うぞ。勝たなきゃだめだ。結果を残さなきゃだめだ。この程度でいいと自分を甘やかすな。そんなやつに、未来はない。自分に厳しく、死に物狂いで戦えるやつだけが、勝者になれるんだ。野球も人生もな」

 

 村田の口調は熱っぽく、説得力に満ちていた。

 おれも一瞬、あぁそうか、勝つ側に回らなきゃだめなんだ、野球も人生もって、思っちゃったもんな。

 けど、ちょっと待て、待て、待ってくれ。

 ちょっと変じゃないか、それ。(p132)

 

 

あさの作品で上手だなと思うことの一つに、「押し付けとか常識とか、慣習などに対する、違和感に接した時の心の揺れ動き方の描写」があります。

あんまり賛同できない意見だな、と思っていても、適当に聞き流したり、その場では同調したり指示に従っておいて、あとで陰口を言ったりすることが予想できる場面でも、あさの作品では意地を張ったり抵抗したりするシーンが時折見られます。

その結果衝突したり、回り道になるのだとしても、自分の意見を持ってほしい、本当に他者や大人の言う通りなのか自分の頭で考えてほしい、そんな意図が見えてくるようです。

まあ、あんまり周囲とぶつかっちゃってギクシャクしてくると、その展開にこちらが疲れてしまうこともあるんですけど…。

 

それでも好きです。

登場人物は違いますが、高校生になって、こなれた『バッテリー』になりました、といった空気が軽快で良いと思います。

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。