おはようございます、ゆまコロです。
マーク・ヴァンホーナッカー『グッド・フライト、グッド・ナイト パイロットが誘(いざな)う最高の空旅』を読みました。
ブリティッシュ・エアウェイズ社のパイロットが書いたエッセイです。
知っている風景がいつもと違う美しさを帯びて見える、というこの体験が羨ましいです。
高い場所にはいくつも魅力があるが、そこを目指す情熱には、損得だけでは割り切れない何かがある。人間はつながりを見つけることー つまり個々の要素がどのように全体を織りなしているかを発見するのが好きだ。音楽でも、詩でも、科学でも、繰り返し味わううちに最初はわからなかった関係性を発見すると、心を打たれる。空を飛ぶこともつながりを見つける行為だといえる。大好きな歌手がカバーした曲を聴いたり、初めて会う親戚の顔立ちやしぐさに懐かしさを覚えたりといったことを、地球相手にやっているようなものだ。知っているはずの曲なのにどこか印象がちがって、初めて会うのに他人ではない気がする。空から森や道路や、住宅地、学校、川を見おろすと、平凡だと思っていたものの新しい面が見える。日常がいつもとちがう美しさを帯びて、ひとつひとつがつながっていることがわかる。とりわけ夜は、その感覚が増す。
(p27)
旅客機のクルーはチームが固定されているわけではなく、メンバーのすべてが初対面ということも珍しくない、という話も少し意外でした。
パイロットになる前に、こんなにも短い出会いと別れを繰り返す職業だと知っていたら、それは空を飛ぶ代償だと思ったかもしれない。しかし仕事仲間の顔や名前がわからないからこそ、親切が身に染みることもある。初めて顔を合わせる同僚について、わかっていることはふたつしかない。ひとつは相手が定められた仕事を果たすのに必要な資格を持っていること。もうひとつは、じきに出発時間だということ。そういう状況では、自然な思いやりや親しみが必要だし、それが当然のようにやりとりされている。お互いに気持ちよく働くための、シンプルな善意の交換なのである。
ほかにもこの仕事ならではのやりがいがあって、それは新聞配達をしていた十代の頃に感じたやりがいと似ているように思う。たとえば氷点下で雪がちらつく朝など、仕事に行くのがいやだったけれど、つらいからこそ世界がまだ眠っている時間帯に、誰に褒められるわけでもなく新聞を配っている自分にささやかな誇りを持てた。注目されるのは遅刻したり欠勤したりしたときだけで、普段は誰にも気にかけてもらえない。そういう環境で世界が滞りなく動くように、朝早くから(または夜遅くまで)働くことへの誇りは新聞配達もパイロットも同じだ。きっと電力会社の社員や、除雪車の運転手も共通した思いを抱いているだろう。(p266)
「世界が滞りなく動くように」働いている自分に誇りが持てる、というのは、働き方として理想的に近い心持ちであるように思います。
他にも、花火が上空からどんなふうに見えるか、という話や、出勤して飛行機に乗るまでにどんなことをするのか、という話、飛行機に電源を入れる話など、興味深いエピソードが満載でした。
自分が搭乗した飛行機を、こんなに情熱と喜びを持って仕事に臨んでいる方が操縦してくださっているのだったら嬉しいなと思えてきます。
飛行機が好きな人にぜひおすすめしたい本です。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
グッド・フライト、グッド・ナイト──パイロットが誘う最高の空旅 (ハヤカワ・ノンフィクション)
- 作者: マーク・ヴァンホーナッカー,岡本由香子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/02/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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