ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

水野英子『ファイヤー!』

こんばんは、ゆまコロです。

 

水野英子『ファイヤー!』を読みました。

 

「みんなのミュシャ」展に出品されていた扉絵を見て、可愛い絵だったので読んでみました。

 

アメリカ・オハイオ州出身の少年が、ミュージシャンを目指す物語です。

主人公・アロンが、歌手としての才能にあふれているのに、その才能を商業的な目的で使うことに疑問を抱く場面が印象的でした。

 

 

ジュリアン「音楽は好きだ

 音は純粋だからだ

 音は媚びない

 言葉は美しくつくろおうとするが

 音楽は奏するもののすべてを見せる ウソはつけない

 きみはなんのために歌うのか?」

 

アロン「歌いたいからだ」

 

ジュリアン「なぜ歌いたいんだ」

 

アロン「わからない

 ぼくの中で何かが燃えてる

 どろどろと溶岩のように出口をさがして…

 

 ウルフもそう言ってた

 何かが体の中をかけめぐるんだと…

 彼の死以来 ぼくの中にもそれができた」

 

ジュリアン「ファイヤー・ウルフか

 きみは彼のことを歌ったな コンビネイトで聞いたよ

 自由に生き、自由のために歌を教えた さぞ鮮烈な男だったろう」

 

アロン「彼のように歌いたいと思った

 彼のように生きられたらと思った

 でも ぼくはいったい何をしてきたのか…」

 

ジュリアン「アロン、きみの求めているものはウルフではない 

 自分自身なのだ

 だれのようになりたいとか 

 だれかのために歌おうとか思ってはいけない 

 自分をだましてはいけないのだ

 ウルフは自分以外の者のために生きようとはしなかったはずだ

 きみは媚びることを知らない

 今からきみは歌手としてどんなに困難な道を歩まねばならないか…

 世の中はきみに対してきびしいぞ

 だがそれをのりこえた時 

 きみは初めてほんとうのウルフになれるんだ

 自分を見つめろ アロン!

 ぼくはきみが好きだ きみは生まれながらに純白だ

 その白さを通そうとすれば まわりの者を傷つける

 そうでなければ きみ自身が血を流して死なねばならない

 きみがこれからどのように生きていくか見ているのは楽しい

 たくさんの生々しい傷が口をあけることだろう」(p239)

 

 

 

主人公のアロンは可愛らしいのですが、精神的に不安定で、寂しさを埋め合わせるために、周りの女性とすぐに関係を持ってしまいます。

そんな彼を、ほぼ序盤からラストまで支える女の子・ジュールの描かれ方も、なかなかいいなと思いました。

 

 

ジュール「わたしは いったい何かしら

 アロンにとっては 無

 チャーリー(婚約者)にとっては憎しみ

 そしてわたし自身にとっては…

 もしや…

 わたしは アロンを愛しているのではなく

 自分の愛を満足させるために

 アロンを選んだのじゃないかしら

 愛なんて 相手のために犠牲になることじゃなく

 絶対に そうじゃなく…

 自分を満足させる最高の手段なのでは…?

 

 わたしはアロンに自分をおしつけようとしている

 この思いがそうなの?

 こんな…はりさけそうな苦しさなのに…わたしは…」(p116)

 

 

この子の俯瞰的な見方が好きです。

 

アロンの取り巻きとして近くにいるのも、仲間として一緒に仕事をするのにも、どちらにしてもなかなか苦労しそうな予感がします。

 

彼の苦しみと、音楽をめぐる旅の結末を思うと、自分がそれほどの才能に恵まれていないことを少し幸運にも思いました。

 

扉の絵に男性のおへそも描けない時代に、壮大なテーマの漫画を世に生み出して下さった水野先生に感服せざるを得ません。面白かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

ファイヤー! (3) (秋田文庫)

ファイヤー! (3) (秋田文庫)