ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

重松清『疾走・上』

おはようございます、ゆまコロです。

 

重松清『疾走・上』を読みました。

 

お話の舞台は、以下のような場所です。

「沖」(干拓地にある集落)と「浜」(干拓以前からある集落)に分かれている日本のある町の中で、お互いはほとんど交流なく暮らしています。

 

こういう、隔たりや偏見の生まれそうな状況が、重松清の話っぽいなと思いました。

 

「浜」に暮らす主人公・シュウジと、その4つ年上の物知りな兄・シュウイチの生活を軸に、物語は進みます。

 

主人公は、世界に対し冷めた見方をしていて、いじめられたり、死にたくなったりする出来事に見舞われます。だいぶかわいそうな展開ではあるのですが、上巻では彼よりも、優等生という周囲からの評価から転がり落ち、次第に心を病んでいく兄・シュウイチの姿が辛いです。

 

世間の求めるような優秀な自分でいられなくなった兄は、家族に対して暴力を振るうようになります。

 

 

もしも自分が逃げたり抵抗したりしたら、今度はシュウイチの暴力は母親に向かうかもしれない。おまえがそう思って耐えていることなど、両親は、なにも知らない。

 

 

ここで視点が俯瞰的になるのが印象深かったです。

もう一つ、誰かを殺すということについて、シミュレートするシュウジの考え方が心に残りました。

 

 

 殺すなら、自分の人生と引き替えにしても殺すに価する相手にしたい。だが、そういう相手は、なんとなく、殺してしまいたい気にはならないようにも思う。

 

 ほんとうに憎んだり恨んだりする相手を殺すことはできるのだろうか。もし自分がひとごろしになるのだとすれば、意外とつまらない相手を、つまらない理由で、つまらないやり方で殺してしまって、それでおしまい―― になってしまうのかもしれない。

 

 

下巻に続きます。

疾走 上 (角川文庫)

疾走 上 (角川文庫)