ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

あさのあつこ『福音の少年』

おはようございます、ゆまコロです。

 

あさのあつこ福音の少年』を読みました。

 

主人公の少年・明帆が、お付き合いをしていた同級生・藍子の死に疑問を抱き、彼女の幼馴染の陽と真相を探るお話です。

 

交際中の16歳の二人がいきなりギクシャクしているので、読んでいるこちらも何となく身構えてしまいます。

 

 

  無様なことだ。藍子に憐れまれたことではなく、憐れまれて、羞恥も怒りも感じないことを無様だと思う。自尊心の欠片もないのかと、自分を嘲笑(あざわら)いたくなる。

 

  他人に思いを馳せられない者は、自分を尊ぶこともまた、できないものなのだろうか。

 

  束の間、明帆は、思いあぐねる。

 

 

自尊心の欠片もないというよりは、そんなに藍子さんに思い入れがないのかな、と思ってしまう言い分です。

 

物語が進むと、最初の頃よりは、主人公にポジティブっぽい雰囲気が漂ってきます。

 

 

 

  呼ばれて秋庭は、答える代わりに視線を明帆に向けた。この人は幾つなんだろうと唐突に思った。たぶん、父親とそう変わらない年齢のはずだ。この人の歳になるまでに、おれは何ができるだろう。

 

   それもまた、唐突な思いだった。

 

   秋庭と自分の間に横たわる何十年という時間は、何をもたらし、何を奪っていくのか。何かを成し、何かを失い、創り、壊し、身体と精神の変容を抱え生きていく…未来を夢見るとか将来を見据えるとか、そんな意見ではなく、明帆は、今この時から先へと延びる自分の時間に心を馳せてみたい。ほんの一瞬だったけど、そんな思いに囚われた。

 

 

もう一つ、戦争に対するあさの先生の考え方なのかな、と思われる記述があり、そこが好きです。

 

 

 戦闘に深く巻き込まれた者の中で、一番に損傷し、麻痺していくのは、引き金を引く指でも、逃げ惑うための脚でもない。人間であることだ。人を人たらしめていること。倒れた者を抱き起こす、他者を愛する、弱いものを庇う、包み込む。(中略)…人の内にある人としての存在証明の箇所がまず、真っ先に損なわれ、麻痺していく。破壊され、腐り、狂っていく。

 

 

『バッテリー』を読んだ後にこの本を手に取ったら、同じ作者なの?と思ってしまうくらいの驚きがあると思います。

孤独を感じるお話でした。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

 

福音の少年 (角川文庫)

福音の少年 (角川文庫)