おはようございます、ゆまコロです。
田澤耕『物語 カタルーニャの歴史 知られざる地中海帝国の興亡』を読みました。
外尾悦郎さんのガウディの本が面白かったので、ガウディのふるさとについても気になり、手に取ってみました。
カタルーニャという名前は聞いたことがあるけど、どんなところなのかはほとんど知りませんでした。
カタルーニャとはそもそもどのあたりなのかというと、スペインの地中海岸の北東部、フランスと国境を接する地方を指すようです。
現在は、広範な自治権を有する自治州であり、その州都はバルセロナだ。カタルーニャの人口は約六百万人。この人口はデンマークを上回り、ヨーロッパでは中程度の国に匹敵する。(p3)
本書では、カタルーニャが地中海で大きな力を持っていた頃、衰退して言った頃、そして現在まで、民衆に愛された偉人や、不遇な人生を辿った王様など、主要な人たちにスポットを当てて、現代までを描いています。
雑学や裏話が豊富で、聞いていて印象に残りやすい世界史の先生の授業みたいです。
特に印象に残ったのは、サン・ジョルディの話です。
このサン・ジョルディとは、四世紀にパレスチナで殉教したと伝えられるオリエントの聖人である(英語読みにすればセント・ジョージ)。
実在した人物かどうかはやや怪しい。しかし、英国、ポルトガル、ギリシャ、リトアニア、ジェノバ、グルジアなどが守護聖人としており、その人気は高い。
なかでも、イスラム教徒に痛めつけられてきたカタルーニャでは、絶大な人気を誇っている。なぜイスラム教と関係があるのかというと次のような伝説があるからである。
国土回復がはじまって、イスラム教徒は徐々に南へ押し返されるようになっていた。しかし、ずる賢い彼らはただでは領土を明け渡さない。逃げ去る前に、アフリカで捕まえてきた竜をカタルーニャの地に放ったのである。竜はキリスト教徒の乙女を常食としており、いかに勇敢で腕自慢の騎士が退治に赴いても、かたっぱしから殺して食べてしまうのであった。そして最後の切り札として登場したのがサン・ジョルディであった。サン・ジョルディは期待にこたえ、竜を槍の一突きで殺してしまい、捕らわれの乙女を救い出したのである。(バルセロナのグラシア通りにあるガウディの傑作カザ・バッリョはこのストーリーをモチーフにしている。屋根が竜の鱗(うろこ)、ベランダが竜に食べられた騎士たちの兜、柱はその骨、そして煙突が竜を貫くサン・ジョルディの槍というわけである。)ちなみに、そのとき竜が流した赤い血が赤いバラの花に変わったというおちがつく場合もあるが、これは、サン・ジョルディの祭日の習慣にかかわるこじつけであるように思える。
サン・ジョルディは古くから絵に描かれたり、彫刻のモデルになったりしてきた。たいていは白馬にまたがった美男子で、槍を持ち、旗印は白地に赤十字、足元には哀れ討ち取られし竜が横たわっているという構図になっている。(p45)
四月二三日のサン・ジョルディの祭日には、主な通りに本を売る屋台(文豪セルバンテスの命日でもあります)とバラを売る屋台が出て、買い物客で賑わうそうです。
それと、本書の後半の、スペイン内戦の話も衝撃的でした。
内戦は当時の合法的政府であった左派で自由主義的な共和国政府と、これに対して反乱を起こしたファシストの国民軍との間で闘われた。この悲惨な戦争の様子はジョージ・オーウェルの『カタロニア賛歌』や、ヘミングウェーの『誰がために鐘は鳴る』などに描かれている。
カタルーニャは、この内戦で敗者となった共和国政府を最後まで支持していたので、戦後成立したフランコの独裁政府から過酷な弾圧を受けることとなった。その弾圧は半端なものではなく、政治的な側面はもとより、文化的・社会的な面にもおよんだ。カタルーニャの民俗芸能や、カタルーニャ語の出版は禁止され、カタルーニャ語を公の場で使うことも禁止されてしまった。
こういう言い方は抽象的でわかりにくいかもしれない。もっと具体的に言うならば、自分の身分証明書に書かれた名前がある日を境に変わってしまうのである。昨日までジョルディと呼ばれていた人が今日はホルヘと名のらねばならなくなる。また、商用の手紙をカタルーニャ語で書いたり、うっかり共和国時代の、カタルーニャ語で印刷された切手を貼ったりしただけで投獄されてしまったりするのである。(p232)
この地域について自分は何も知らなかったと思うとともに、辿ってきた道もめまぐるしいものがあると感じました。カタルーニャ地方の歴史を知る入門として、分かりやすいように思います。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
物語 カタルーニャの歴史―知られざる地中海帝国の興亡 (中公新書)
- 作者: 田沢耕
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2000/12/01
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