おはようございます、ゆまコロです。
大鐘良一・小原健右『ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験』を読みました。
宇宙飛行士選抜試験の厳しさも然ることながら、宇宙飛行した時に見舞われるトラブルには想像を絶するものがあります。
“ 折れない心 ” と聞くと、なんとなく前向きなイメージを抱きますが、宇宙飛行士に求められるそれは、まったく休息をとれないような環境下でも、自分の命が尽きるかもしれない時にも、仲間を労わる力なのかなと思いました。
NASAの宇宙飛行士による面接試験に挑んだ日本人のお話が印象的です。
*本番に持ち込んだ “ノート”
NASAの宇宙飛行士による面接試験。これから挑もうとする安竹の手には、森先生から手渡されたノートがあった。
ノートを持っていることに気づいた私たちは、安竹に声をかけた。
「宇宙飛行士になりたいという気持ちの “証拠” を、ちょっと持ってきちゃいました」
照れ笑いしながら、安竹は語った。
「ヨウヘイ、準備が出来たよ!」
安竹は、NASAの採用担当責任者であるロス氏に呼ばれると、表情が一気に引き締まった。そしてしっかりとした足取りで、面接室に向かった。
席に座った安竹に、宇宙飛行士室長のリンゼー氏が早速、志望動機を尋ねた。
「ヨウヘイ、なぜ君は今、ここにいるんだい?」
すると安竹は、次のように答えた。
「僕がここにいる理由は…」
と質問を繰り返したあと、一瞬、間を置いて、
「これで説明できると思います」
と答え、ファイルからノートを取り出し、自分の前にかかげたのである。
そして、単語を1つひとつ選びながら、答えを続けた。
「僕が高校生だったころ、森先生という恩師がいました。その森先生が、NASAのケネディ宇宙センターを訪れ、『スペースシャトルミッションズ』というNASAのビデオを持って帰ってきました。
私はNASAが好きだったので、そのビデオを森先生から借りました。内容を知りたかったのですが、最初は英語が難しすぎて分かりませんでした。そこで日本語に訳すことにしたのです」
帰国子女のような、流暢な英語ではない。しかし分かりやすく、聞き取りやすい。発音も明瞭で、悪くない。その他の優秀な候補者たちの中でも、際立って "伝わる” 英語を安竹は話していた。
「ビデオの発音だけをカセットテープに録音して数えきれないほど何回も聞き、分からない単語を辞書で調べて訳をこのノートに書いていきました」
当初リンゼー氏らは、他の候補者と変わらぬ鋭い目を安竹に向けていた。しかし話を聞き、そして何よりも、ノートを見るうちに表情が明らかに柔らかくなった。
安竹は続ける。
「すると英語が分かるようになって、宇宙飛行士の仕事も理解できるようになりました」
当初は厳しい表情をしていたNASAの面接官たちは、いつの間にかみな微笑んでいた。なかでもリンゼー氏は身を乗り出しており、明らかに感心した様子だった。
そして安竹のノートを見ながら、リンゼー氏は確認するように尋ねてきた。
「すると君は、ビデオ一本分のナレーションをすべて訳して、ノートにまとめたということなのかい?」
「はい。1時間ほどのビデオだったので2、3時間をかけて…」
「え! 2、3時間で終わったの?」
「あ、いや、1日2,3時間です」
リンゼー氏と安竹のやりとりを聞いていた面接官たちはみな、笑っていた。その雰囲気は、それまで見てきたどの候補者の面接よりも温かかった。1つの答えで、場の空気をここまで変えることができるのか。私たちは驚かされた。
そして最後に、スペースシャトルに搭乗する宇宙飛行士の採用を、第一回目から担当してきたロス氏が安竹に声をかけた。
「たぶん君は、この部屋にいる誰よりもスペースシャトルに詳しいよ」
面接室は、大きな笑いに包まれた。
*安竹の面接が教えてくれたこと
言うまでもないが、NASAの面接は、優れた志望動機だけで乗り越えられるほど甘くはない。
NASAは、複雑な装置を扱う技術面での実績や、航空機などの操縦経験も重視しており、前に述べた「人間性」や「覚悟」だけではなく、専門性においても高いレベルを求めているからである。
無論、これらはすべて英語で的確にアピールできなければならず、その意味で極めて難度の高い面接であると言える。
しかし、この面接での安竹の姿勢は、どんなに厳しいシチュエーションで言葉のハンデがあっても、自らが日々積み重ねてきた努力を信じて、自信と誠意を持って伝えれば、相手の心を動かし、自らのペースに引き込む回答をすることが可能なのだということを最も分かりやすく示してくれた。
彼らの努力と情熱、ユーモアには本当に頭が下がる思いです。
また、選抜試験の面接時にされた質問なども興味深かったです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。