おはようございます、ゆまコロです。
目次を見ると、「招待を断わる手紙」など、用途ごとの章タイトルになっています。
いろんな場面での、三島由紀夫が考えた手紙の文例が並んでいるのかと思いきや、様々な境遇の5人の手紙のやりとりがつながっていて、それがひとつの物語になっています。
その一風変わった構成も面白いのですが、登場人物の心境の表現の巧みさ、語彙の豊かさに感服させられます。
それでいて三島は、手紙を書くときに大事なこととして、
「あて名をまちがいなく書くこと」とあとがきに書いていて、なんだか親しみが湧きました。
この中で好きなのは、ある男性から女性に宛てて、自分が褒められた出来事を語る手紙です。
「僕は自分の気持ちを分析してみて、そこにナルシシズムがあるのをつきとめました。今まで僕は人から「美しい」などといわれたことはないし、あんまり自分の容貌を気にするたちではありません。それなのに、人もあろうにあの肥った三枚目からそう言われてみると、「あいつに比べれば、なるほど僕のほうがずっと美しいかもしれない」という、比較対照の感情を持つようになったのです。
それに、僕にとっての新しい発見はこんな同性からの賛美によって、自分の男性的魅力がはじめて確認された、という感じを得たことです。
女の子から、「ちょっとイカスわね」と言われれば、うれしいにきまっているが、男は軽率に自分の男性的魅力を信じるわけにはいきません。
女の子というものは、妙に、男の非男性的魅力に惹かれがちなものだからです。しかし同性からそう言われたら、もう僕の男としての魅力には疑いがない。なぜなら向うも男であるのに、その男が膝を屈して愛を打ちあけるのだから、僕の男性的魅力は、水準以上ということになります。
まあ、こんなわけで、大川点助の手紙は、いやらしいのグロだのという偏見を取りさってみれば、僕の人生に一つの贈り物をしてくれたという感じがします。
これについて貴女の感想をきかせてください。」
嬉しいことがあった時や、相談に乗ってほしいことがある時など、その書き出しや、自分の誠意の伝え方など、実際に手紙を書く時にも、結構参考になりそうな気がしました。
最後まで読んで下さってありがとうございました。