おはようございます、ゆまコロです。
トーベ・ヤンソン、山室静(訳)『ムーミン谷の仲間たち』を読みました。
この本はこれまでのムーミンシリーズとは違い、短編集になっています。
どの話も展開が結構違っていて面白いのですが、好きなのは、旅の途中のスナフキンが自分のファンに会い、名前の無い彼に名前を付けてあげる「春のしらべ」という話です。
「おまえだって、いつもあいそうがいいというわけにはいくまい。そういうことは不可能だ。時間だってないんだ。しかしとにかく、あのはい虫は、名まえをもらったんだ。
スナフキンは、もう一度そこにすわって、小川のひびきと沈黙に耳をすましながら、自分の歌がもどってくるのをまちました。
でも、それはもどってきませんでした。つかまえるには、もうあまりに遠くへいってしまっていることが、すぐにスナフキンにはわかりました。おそらくかれは、二度とそれをつかまえることはできないでしょう。かれの耳にきこえてくるのは、しゃべりにしゃべっている、あのはい虫の、しつっこい、内気な声だけのように思われたのです。」(p21)
すごくいいアイデアが思い浮かんだと思ったのに、なにかの拍子でふと消えてしまうことって、ありますよね。
せっかくなので、他の話についても少し感想を述べておきます。
①「ぞっとする話」
ミイがある男の子を怖がらせる話なのですが、確かにこの話のミイは何を言っているのかよく分からず、不気味な印象でした。
②「この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ」
お茶の様子が楽しそうな話。不安や心配事で悩んでいる登場人物が、あるきっかけがあってその状態から脱する、というパターンはムーミンの世界で時々見られるのですが、自由を感じて幸せそうにしているフィリフヨンカさんの表現が、トーベさんらしくて好きです。
③「世界でいちばんさいごの竜」
みんなの前でミイに自分の秘密をバラされそうになったムーミントロールが「だまれ!」とどなるシーンが印象的な話。唯一スナフキンだけに、なつく竜の様子も可愛いです。
④「しずかなのがすきなヘムレンさん」
ムーミンの世界で、
「年金をもらうようになったら」
…とか聞くと、なんだか急に現実の話っぽくて不思議な感じがしました。割と好きな感じです。公園を作る様子が、ムーミンパパが若いころの話とちょっと似ているような気がしました。
⑤「目に見えない子」
私の好きなおしゃまさんがちらっと出てきて、テンションが上がりました。
⑥「ニョロニョロのひみつ」
ムーミンパパの家出の話。ムーミンパパはとても魅力的なのですが、こんなに自由な人が自分の父親だったら、と考えると少し不安になります。
⑦「スニフとセドリックのこと」
「「ねえ、スニフ、もしあなたがそれほどセドリックを愛していたんなら、ガフサ夫人のむすめになんかでなく、だれかすきな人にやればよかったのに」
「プー」
といったきり、スニフはかわいそうになきはらした目で、ゆかを見つめていましたが、やがていいました。」(p231)
この可愛い返答はなんなのか。そしてチラッと挿絵で描かれるセドリック(※ぬいぐるみ)は確かにとても愛くるしいです。ぬいぐるみがほしい。
⑧「もみの木」
クリスマスを知らないムーミン一家の勘違いなお祝いの話。ムーミンコミックスにノリが似ていると思いました。
この巻では、これまでのムーミンシリーズの挿絵にはあったトーベさんのサインがなかったり、(サインがある絵もあります)デッサンのようなタッチの絵が多いのは、なにか理由があるのでしょうか。
可愛いのもあるのですが、時々びっくりする絵もあります。嵐の中のフィリフヨンカさんとか。
ムーミンシリーズも残りあと2冊です。
最後まで読んで下さってありがとうございました。