おはようございます、ゆまコロです。
ベトナム戦争末期の沖縄が舞台のお話です。
巨大爆撃機B-52の機長の、機上についての話が印象深いです。
「その途中、車の中で彼が言ったこと。
低い、かすれた、力のない声だった。
「手にした玉子を落としてしまう。手から離れた瞬間、もう取り返しがつかないと気づく。それが地面にぶつかって、割れて中身が流れ出す。止めようがない。あるいは、勘違いから飛び降り自殺をしたとする。足がビルの屋上を離れたとたんに勘違いと気づく。落ちていく。止めようがない…爆弾を投下した後、同じことを感じるんだ。落とした爆弾は空中では拾えない」
「そんなこと考えてるの?」
あたしは不思議に思ってそう聞いた。爆弾を落とすのは成果であり、手柄なんだろうと思っていたのに。
「それが恐い?」
「ああ…俺はあいつを飛ばす。あのでかいのを間違いなく目的地へ連れていく…爆弾投下のスイッチを押すのは下のデックのレーダー航法士だ。彼が爆撃手を兼務している。それだって今ではでほとんど機械任せだ…投下が始まると、機体がすっと浮く。捨てた爆弾の分だけ軽くなるんだ。ああ今あれが落ちていくと思う。もうどうしようもないと思う…それが、すごく嫌な気持ちなんだ」
あたしは黙って聞いていた。今は聞いてあげることが療法みたいな気がしたし。人に言えるというのは治療の一歩前進だから。
「ぜんぶ投下したらすぐに離脱する。高度を上げて、旋回して、さっさと基地に機首を向ける…それが前はいい気持ちだった。すっきりした。近頃じゃ、すごく嫌だ。なんだか友だちの誕生パーティーで、居間の真ん中にクソをしちまったみたいな気分になる…俺がしたとは誰も知らない。だけどそこにクソはあるんだ」
「仕事を変えたら?」
「女はすぐにそういうバカなことを言う。あれを飛ばす以外に俺に何ができるっていうんだ」
黙って聞き流した。
こんな風に話せたからしばらくは大丈夫だろう。今日はきっと大丈夫。
基地に入り、宿舎の前まで送った。
「今晩、会える?」
「ああ、たぶん」
「うちにおいで。わたしが抱いて寝てあげる。やれなくてもいいから。おなかとおなかをくっつけて眠ろう。おなかと背中でもいい、スプーンを重ねるみたいに」
「わかった。ありがとう」
そう言ってパトリックは降りていった。まずまずしっかりした足取りだった。」(P154)
ふつうの人々が戦争の中で、何を判断基準に、どうやって自らの行動を選択するのか。自分だったらどうするだろうかと考えさせられました。面白かったです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。