ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

ポール・オースター&J.M.クッツェー『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011』

おはようございます、ゆまコロです。

 

選抜高校野球の季節ですね。

この時期、お休みの日には朝から野球を見られるのがとても嬉しいです。

 

野球つながりで、今日はこの本からこんなお話を。

 

2010/7/21 ポールからジョンへ

 

「野球のシーズンはとても長く、百六十二試合ある。その六ヵ月にどのチームもそれぞれ浮き沈みを経験する。好調期と不調期、けが、たったひとつのプレーが原因で喫した手痛い敗北、思いがけぬサヨナラ勝ち。常にやるかやられるかのボクシングと違って、野球にはやる、そしてやられるもので、やられた場合でも、次の日には棺桶から這い出して、またベストを尽くさねばならない。野球において安定した気性があれほど高く評価されるのはこのためだ。敗北をやり過ごし、過度に浮かれることなく勝利に冷静に対処せよ。よく言われるのは、野球は人生に似ているということだ―—その心は、野球は運不運を甘受することを教えてくれる。他のたいていのスポーツは、戦争に似ている。

 

 この夏、スポーツ界では奇妙なことが多かった。テニス史上最長のセット、ワールドカップでの審判の奇怪な誤審、今名前が思い出せない南アフリカのランナー(※キャスター・セメンヤ。訳者注)の女性という性別への公式の回帰。なかでも強く引きつけられるのは、野球のメジャーリーグの試合で一、二カ月前に起こった出来事だ―—スポーツについての物語であると同時に、人間の美徳についての物語でもある。僕がざっと計算するところ、過去百二十年間におよそ二十五万回の野球の試合が行われてきた。この期間を通して、ピッチャーが成し遂げた完全試合は二十しかない。完全試合とは、最初から最後までひとりのピッチャーが、相手チームのすべてのバッターを連続してアウトにした試合のことだ。各イニング三人ずつ、前九イニングで二十七人のバッターということになる。デトロイトのアーマンド・ガララーガという若いピッチャーが(二十代前半ととても若く、駆け出しで、僕はそれまで名前を聞いたことがなかった)、もう少しで不滅の殿堂に入るところだった。彼は二十六人のバッターをアウトにし、二十七人目が一塁でアウトになったとき、殿堂の扉が開いて、彼はその敷居をまたいだかに思われた。バッターは明らかにアウトだったが(どの角度からのリプレー映像も、これが疑いの余地のない事実であることを証明した)、一塁の塁審だったジム・ジョイスなる男(ジェイムズ・ジョイス!)が判定を誤り、バッタ―はセーフになった。これは途方もない誤審で、おそらく野球史上最悪の判定ミスだが、その瞬間、ガララーガが自分の完全試合が不当に奪い取られたことを理解した瞬間に起きたことはすばらしかった。若者はほほえんだんだ。あざけりや軽蔑の笑みではない。皮肉な笑みですらなく、真の微笑、叡智と受容のほほえみだった―—まるで、「そうですよね。これが人生、まさにこんなことが起こるものですよね」とでも言っているようだった。僕はあんな光景を見たことがない。他の選手なら誰でも、あの状況に置かれたら怒りと抗議を爆発させ、不公平だと叫びたてたことだろう。しかしこの若者は違った。落ち着いて、動揺している様子は微塵も見せず(試合は続かざるをえなかったから)、彼は二十八人目のバッターをアウトにした―—そしてそうすることで、それ以前のどの完全試合よりも完全な試合を、自分になんの名誉も与えない試合ながら完成させた。

 

 後になって、リプレーを見たジム・ジョイスは恥じ入った。「俺はあいつから完全試合を盗んじまった」と彼は言い、公の場でガララーガに謝罪した―—相手は思いやりを持って謝罪を受け入れ、誰でも間違いはするものだし、恨んではいませんと言った。」(p195)

 

ポール・オースター&J.M.クッツェー、くぼたのぞみ&山崎暁子(訳)『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011』は、オースターとクッツェーのお手紙でのやりとりを本にしたものです。

 

オースターから郵送で手紙が届く…いいなあ。

日付を見ると、間隔があまり空いてなく、双方が筆まめなことが分かります。

オースターが、彼の奥さんの実家で過ごすノルウェーのクリスマスの話も素敵です。

 

まだ私はクッツェーの書いた本は読んだことがないのですが、シェイクスピアの話が時々出てきて、シェイクスピア好きとしては気分が盛り上がりました。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

野球に携わる高校生がベストを尽くせますように。

 

ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011

ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011