おはようございます、ゆまコロです。
ポール・オースター、柴田元幸(訳)『鍵のかかった部屋』を読みました。
この本は、内省的な表現の多いオースター作品にしては、かなり物語に動きがある話だと思いました。
主人公は親友の奥さんや、親友の母親と関係を持ったりと、奔放な印象で、ちょっと珍しい感じがします。
「彼女は泣き出した。そしてそれから一週間泣きつづけ、あたかもファンショーが死んでしまったかのように、彼を失ったことを悼んだ。しかし涙がやんだとき、彼女の心に悲嘆の念はなかった。ファンショーは何年かのあいだ私に与えられたのだ、それが終わりになっただけのことなんだ、そう彼女は割り切ることにした。」
この「彼女」の気持ちの折り合いの付け方が、ちょっといいと思いました。
「自発的な善行、自分がしたことに対する揺るがぬ信念、それが招いた結果をほとんど受動的に黙って受容する姿勢。彼の行ないがどんなに素晴らしいものであっても、彼自身はいつもどこか、その行ないから超越しているような気がしたものだ。おそらく彼のこういうところに、ほかのどの点にもまして僕は気おくれを感じ、ときとして彼から距離を感じることになったのだろう。僕がファンショーのすぐそばまで近づいてゆき、心の底から彼の素晴らしさを讃え、彼にふさわしい人間でありたいと絶望的なまでに強い欲求を覚える―そして突然、ファンショーは僕にとって他人なのだと思い知らされる瞬間がやって来るのだ。」
こういう劣等感の感じ方も、分かるような気がしました。
孤独で破壊的な後半よりも、幼少時代の“僕”とファンショーと、それらを取り巻く世界について書かれる前半が好きです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
- 作者: ポール・オースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1993/10/01
- メディア: 新書
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