おはようございます、ゆまコロです。
リチャード・バック、五木寛之(訳)『かもめのジョナサン 完成版』を読みました。
テーマがあるのだけど、その捉え方は多様に出来て、何が論点なのかは、読む人によって異なる物語だと思いました。
憧れの存在を神格化するとはどういう現象なのか、という宗教的な見方も出来るし、身体的な技能を磨くことがメンタルを見つめることにつながる、という、スポーツ的な見方もできます。
長くない文章量のこの物語が、たくさんの人に支持されるのは、「大衆の心の底に確実に頭をもたげつつある確かな潜在的な願望と見なすべきである。」(p169)と、訳者の五木寛之さんはあとがきで書いています。
この話を読むことで、いま自分がかかえる問題意識をどう表面化させるか、読後感をそんな風に形に出来そうなところも、面白さの一つだと思います。
後半は前半に比べて、ややシリアスな印象的なので、私はどちらかといえば前半の空気感が好みです。速さに夢中になるあまり、両親に心配されているような、序盤の可愛らしいジョナサンが好きです。
特にいいなと思ったところは、ジョナサンが長老である張(チャン)に質問をするところです。
「この長老は年をかさねるにつれておいぼれるどころか、かえって高い能力をさずけられていた。彼はどのカモメよりも速く飛べたし、ほかの連中がやっとおぼえはじめたばかりの技術を、すでに自分のものにしてしまっていたのだ。
「チャン、ここは天国なんかじゃありませんね。そうでしょう?」
長老は月光の中で微笑した。
「かなりわかってきたようだな、ジョナサン」
「うかがいたいんですが、いまの生活のあとにはいったい何がおこるのでしょうか?そして、わたしたちはどこへ行くのでしょう?そもそも天国などというものは、本当はどこにもないんじゃありませんか?」
「その通りだ、ジョナサン、そんなところなどありはせぬ。天国とは、場所ではない。時間でもない。天国とはすなわち、完全なる境地のことなのだから」
彼は一瞬だまりこんでから、たずねた。
「お前はえらく速く飛べるらしいな、え?」
「わたしは……わたしはただスピードが好きなんです」ジョナサンは答えた。長老がそのことに気づいてくれていたことにびっくりもしたが、また誇らしい気持でもあった。
「よいか、ジョナサン、お前が真に完全なるスピードに達しえた時には、お前はまさに天国にとどこうとしているのだ。そして完全なるスピードというものは、時速千キロで飛ぶことでも、百万キロで飛ぶことでも、また光の速さで飛ぶことでもない。なぜかといえば、どんなに数字が大きくなってもそこには限りがあるからだ。だが、完全なるものは、限界をもたぬ。完全なるスピードとは、よいか、それはすなわち、即ここに在る、ということなのだ」」p66
タイトルは知っていましたが、今回初めて読みました。
何年か経って手に取ったら、また違う印象を受けそうです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。