ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

クリストファー・マクドゥーガル『BORN TO RUN 走るために生まれた』

おはようございます、ゆまコロです。

 

クリストファー・マクドゥーガル近藤隆文(訳)『BORN TO RUN 走るために生まれた』を読みました。

 

日経womanでオススメされているのを見て、手に取りました。

 

この本では3つの物語が語られます。

1つは、足を痛めたランナーである著者がメキシコの銅峡谷(バランカス・デル・コブレ)でカバーヨ・ブランコと呼ばれる幽霊を見つけ出し、史上最強の"走る民族"、タラウマラ族の秘術を探る話。

2つ目は、人間の体がもともと走るように出来ていることや、多くのランニングシューズが足に悪影響を及ぼしていることを科学的な見地から解き明かす話。

3つ目は、タラウマラ族と、アメリカの世界最強のウルトラランナー7人がメキシコの荒野で激突するレースの話。

この3つの物語が進むうち、著者はタラウマラ族の走り方を身に付け、足の痛みがなくなっていることに気付きます。

 

そして、随所に、走ることを楽しんでいるランナーの言葉が散りばめられ、羨ましくなってきます。

 

好きなのは、チェコ出身の長距離ランナーで、その後ソ連側に同調してスポーツ大使を務めることを断ったエミール・ザトペックの走る描写です。軽快で、読んでいるこちらも気持ちがいいです。

 

「1952年のオリンピック開催地であるヘルシンキに着いた時点で、ザトペックは荒廃した東欧のへき地出身の、頭髪の薄い、自己流で走る三〇歳のアパート暮らしだった。チェコの代表団は層が薄く、長距離の競技を自由に選ぶことができたため、ザトペックはすべてを選択する。まず五〇〇〇メートルに出場し、オリンピック新記録で優勝した。つづいて一万メートルに挑み、またもや新記録でふたつめの金メダルを獲得した。過去にマラソンを走ったことはなかった。でも、それがどうした。首にはふたつの金メダルがかかっている。失うものはない。仕事の仕上げに、ここで挑戦して何が悪い?

  ザトペックの経験不足はすぐに露呈する。その日は暑かったため、当時の世界記録保持者、英国のジム・ピーターズは、暑さを利用してザトペックを苦しめることにした。一〇マイル地点に達したとき、ピーターズは自己の世界記録のペースより一〇分速く、他を大きく引き離していた。こんな猛ペースを維持できる者がいるのだろうか。ザトペックにはわからなかった。「失礼」と彼はピーターズの横に並んで言った。「これが初マラソンなんだ。ちょっと速すぎないかな?」

  「いや」とピーターズは答えた。「遅すぎる」

  質問するほどの間抜けなら、どんな答えを返されても真に受けるだろう。

  ザトペックはびっくりした。「遅すぎるって」と彼は訊き返した。「ほんとにペースが遅すぎるんだね?」

  「ああ」ピーターズは答えた。今度は彼が驚く番だった。

  「そうか。どうも」ザトペックはピーターズの言葉を信じ、猛然と飛び出した。

  トンネルを抜けてスタジアムに突入したとき、ザトペックはどよめきに迎えられた。ファンだけでなく、トラックに殺到した世界各国の選手たちからも歓声が飛んでいた。ザトペックは三つめのオリンピック記録でテープを切ったが、祝福しようと駆けつけたチームメイトはひと足遅く、すでにジャマイカ短距離走者たちが彼を肩にかつぎ、フィールド内をパレードしていた。「死んだときに葬儀屋にも悲しまれるような生き方をしよう」とマーク・トウェインは言っていた。ザトペックは勝ったときにほかのチームにも喜ばれるような走り方を見つけたわけだ。」(p137)

 

その後彼は、メキシコ・オリンピック1万メートル決勝で高山病に倒れたオーストリア人に自身の金メダルをプレゼントします。

 

読むと、走り出したくなる本です。

運動へのモチベーションがほしい時、有効かもしれません。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

 

BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族

BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族"