ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

金城一紀『GO』

おはようございます、ゆまコロです。

 

金城一紀『GO』を読みました。

この本は、朝鮮籍から韓国籍を経て日本に帰化した作者の、半自伝の形をとっています。

 

在日韓国人の主人公・杉原が、父親にボクシングを習い、ケンカに明け暮れる日々の中で、桜井という女性に出会うお話です。

 

なんとも、もやもや気持ちになった文章がこちらです。

 

 

韓国には行ける。でも、北朝鮮には行けない。何がそうさせるのだ?もとを糺(ただ)せば、韓国だって北朝鮮だって、ただの陸地じゃないか。何が行けなくしているのだ?深い海か?高い山か?広い空か?人間だ。クソみたいな連中が大地の上に居座り、縄張りを主張して僕を弾き飛ばし、叔父と会えなくしたのだ。信じられるかい?テクノロジー全盛でこれだけ世界が狭くなっている時代に、たった数時間の場所に行けないことを。僕は北朝鮮の大地に居座って、えばり腐ってる連中を許さないだろう。絶対に。

 

 

日本の普通高校に通いながら、周囲に虐げられ、自分は何者なのか分からないまま、暴力に明け暮れる主人公を見ていると、理解することは難しいのかもしれないけど、その苦しみは痛いほど伝わってきます。

杉原くんが唯一尊敬できる友人を失った時の描写も辛いです。

 

物語に出てくる次の言葉が、とても印象的です。

 

No soy coreano, ni soy japones, yo soy desarraigado.

(ノ・ソイ・コレアーノ、ニ・ソイ・ハポネス、ジョ・ソイ・デサライガード)

 

「俺は朝鮮人でも、日本人でもない、ただの根無し草だ。」という意味のスペイン語

 

もし、杉原くんと似た境遇の人に出会った時、自分は何を思うだろう、彼(彼女)が困っているとして、何かできることがあるだろうか、と、読んだ後しばらく考えました。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

GO (角川文庫)

GO (角川文庫)

 

 

パウロ・コエーリョ『ベロニカは死ぬことにした』

おはようございます、ゆまコロです。

 

パウロ・コエーリョ、江口研一(訳)『ベロニカは死ぬことにした』を読みました。

 

アルケミスト 夢を旅した少年』と同じ作者ですが、その時とは違う訳者さんです。印象も変わるかなと思って手に取りました。

 

物語前半はなかなか好きな感じなのですが、時々ロマンチックに事が運びすぎるのが気になります。フィクションだと思って読んでいる途中で、自己啓発本だったんだっけ?という感じがして、ふと我に返ってしまうのです。それがこの作家の持ち味なのかもしれませんが。

 

そんな好き嫌いがあるかもしれない印象はさておき、物語は、何の変哲もない日常に飽きたベロニカが、薬物の多量接種による自殺を図るところから始まります。

一命をとりとめた彼女が精神病棟で出会うさまざまな人との触れ合いを通して、変わっていくお話です。

 

ベロニカが生還後、出会う人物の一人、エドアードが、外交官の息子として保障された道を踏み外していく様子が怖かったです。

 

ベロニカは自暴自棄になって自殺を試みる割には、現実主義者で、自身の結婚生活や、人生設計などのシミュレーションはとてもリアルです。

 

例えばこんな分析が出てきます。

 

 

(押しつけの唯一神教に制約を受けた結婚の場合、)性的欲望は一緒に住んで三年か四年で消えてしまう。それから妻は、拒絶されたように感じ、夫は閉じ込められているように思(う。)

 

 

まだ24歳で、異性からも愛されているベロニカなのに、醒めた見方です。

彼女の自己分析で、好きなのはこちらです。

 

 

今まで生きてきて、ベロニカは、彼女の知っている多くの人が、他人の人生の恐怖について心配そうに話しながらも、本当は、他人の苦しみを楽しんでいることに気づいていた。自分たちは幸せで、自分の人生は喜ばしいものだと思えるからだ。彼女はそんな人たちが大嫌いで、その若い男にも、彼自身の苛立ちを覆い隠すのに、自分の状況を利用させるつもりなど毛頭なかった。

 

 

何もかも諦めたようだったベロニカですが、他人が望むような行動をする自分ではなく、自分が思う通りに振る舞うようになっていく姿が素敵だなと思いました。

 

舞台はスロベニアの首都リュブリャナなので、こちらに行かれる方は読んでみると良いかもしれません。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

ベロニカは死ぬことにした (角川文庫)

ベロニカは死ぬことにした (角川文庫)

 

 

 

 

古川日出男『gift』

おはようございます、ゆまコロです。

 

古川日出男『gift』を読みました。

 

柴田元幸さんが書いた帯に惹かれて手に取りました。

 

短編集ですが、この中で好きな話は2つあります。

 

この店の主人に叱られて、ぼくは初めて焼き鮎が頭からまるごと食べられるんだと知った。無知という状態はばあいによっては幸いであり、人生にいろいろと意外な喜びをもたらす。

「光の速さで祈っている」 

 

猫を引き取る話です。

新しいことをいつも怖がらずに受け入れられる心でいたいと思いました。

 

それは「ありうべからざる遭遇」で、もはや世間とはふれあうことはなかろうと意識していた自分には、世間の側が自分を翻弄するために念入りに準備したトラップにも感じられた。 

「ぼくは音楽を聞きながら死ぬ」

 

この、穿った見方がなんかいいと思います。

現世ではない世界を見る時、音楽が聞こえる、と言った妻のことを思い出しながら、飛行機に乗る男性の話です。

 

嫌いな感じではないのですが、あとの話は、よく分からないものも多かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

gift (集英社文庫)

gift (集英社文庫)

 

 

パウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』

おはようございます、ゆまコロです。

 

パウロ・コエーリョ、山川絋矢+山川亜希子(訳)『アルケミスト 夢を旅した少年』を読みました。

 

作者はブラジルの小説家です。

大学在学中に旅に出たという作者の経験がもとになっているのでしょうか。

旅をする少年の、前向きな考え方に好感が持てます。

 

 

僕は羊たちからものごとを学び、クリスタルからも学んだ、と少年は思った。砂漠からも何かを学べるにちがいない。砂漠は年をとっていて、とても賢いように思えた。

 

 

人以外のものからも学ぼうとする姿勢が良いなと思いました。

 

 

「なぜ、人の心は夢を追い続けろと言わないのですか?」

と少年は錬金術師にたずねた。

「それが心を最も苦しませることだからだ。そして心は苦しみたくないのだ」

 

 

時々、哲学っぽい展開になります。

好きな言葉はこれです。

 

 

「では、たった一つだけ教えてあげよう」

とその世界で一番賢い男は言った。

「幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ」

 

 

日本語訳に少し癖があるので、好き嫌いがあるかもしれません。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)

 

 

ジョン・クリストファー『トリポッド ①来襲』

おはようございます、ゆまコロです。

 

ジョン・クリストファー、中原尚哉(訳)、西島大介(絵)『トリポッド ①来襲』を読みました。

 

西島大介さんの絵が好きです。

表紙の色使いが可愛いと思って手に取りました。

 

SFの合間に繰り広げられる、現実の世界の話みたいなのがリアルで、いい味を出していると思いました。

主人公の少年と、まま母との確執や、実父との小さな衝突の描写が好きです。

 

例えばこんな感じです。

 

 

ふだんのパパは温厚な性格で、知らない人にも気を使う。そんなパパがかんしゃくを起こしたと聞くと、なんだか気分がよくなった。

 

 

地球がだんだんと侵略されていくというシリアスな展開の中でも、主人公の抱える問題は普段通りというのが、ちょっとホッとします。

 

 

 ぼくはふいに気づいた。

 大事なのは、自分が自分らしくあることなのだ。自信たっぷりで軽蔑的でもいい。心配症でおろおろしていてもいい。それが自分の生き方ならそれでいいのだ。それが人間の大事なところなのだ。イアン叔父さんたちが主張している平和とか幸福とかは、じつは死ぬこととおなじだ。自分が自分でなくなったら、もはや生きているとはいえないのだから。

 

 

主人公ローリーと、まま母のやりとりで好きな場面はこちらです。

 

 

「ああ、ロウリー、また会えてうれしいわ」

近づいてきたイルサに、ぼくは手をさしだした。

「ぼくもうれしいよ」

奇妙だった。キスされるのがいやだから手をさしだしたのだし、会えてうれしいというのは口だけのあいさつのつもりだった。でも、そのときはほんとうにそう感じていた。

 

 

1960年頃書かれた本の新訳とのことですが、あまり古さを感じません。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

トリポッド 1 襲来 (ハヤカワ文庫 SF)

トリポッド 1 襲来 (ハヤカワ文庫 SF)

 

 

ポール・スローン『ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣』

おはようございます、ゆまコロです。

 

ポール・スローン黒輪篤嗣(訳)『ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣』を読みました。

 

本の帯にレイトン教授が描いてあり、つい手に取ってしまいました。

発想力、記憶力、会話力を伸ばすための30のヒントが書かれています。

 

それぞれの項目を見ていくと、「26 目標を書いて実現をめざす」など、まあ出来そうかな、と思える事柄もあるのですが、最も難しそうだと思ったのはこちら。

 

17 感情知能を伸ばす

 

(前略)感情そのものにはいいも悪いもない。どんな人間にも、いろいろな感情がある。たいせつなのは、感情がわたしたちにどういう影響を及ぼすか、わたしたちの態度や行動をどう変えるかをどう変えるかを分析し、理解することだ。

 感情知能の高い者は、自分や他者の感情を認識し、それを自分のために利用できる。

 

 ひとつの方法としては、 まず近い過去に感じた気分をいくつか書き出し、次にそれぞれの気分からどういう振る舞いや反応が生まれたかをその横に書いてみるとよい。気分と行為の結びつきを見つける作業だ。やりたがらない人も多いが、見返りは大きい。

 たとえば、批判されたとき、腹を立て、その結果、攻撃的になったということが思い出されたとしよう。そうすると気分と振る舞いの結びつきが分かるので、なぜ攻撃的になってしまったのかと反省できる。

 またさらに重要なのは、それによって、将来の対策を講じられるということだ。会議で批判された場面 ――正当な批判もあれば、不当な批判もあるだろう―― を想像し、さまざまな対応のしかたを考えてみることができる。激怒して、相手を罵倒してしまうというようなものまで含め、ありうる展開をいろいろと考えよう。そしてそのなかから最も建設的と思える対応を選び出し、頭のなかでその練習をしよう。

 その後、実際にそういう場面に直面したら、まずはちょっと間を置く。そして気持ちを落ち着かせ、深呼吸をひとつしてから、練習しておいた対応を試みよう。怒りを前向きなエネルギーに変えるということもそこには含まれるかもしれない。

 一流の運動選手は身体的な技能の練習だけでなく、イメージトレーニングも繰り返し行っている。メジャー大会の決勝に進出したときに味わうと思われるあらゆる感情を、イメージトレーニングで感じようとする。そしてその対処のしかたを練習して、本番に備えるためだ。同じことは、わたしたちのふだんの生活でもできる。

 

 自分を説得するということがここでは重要だ。どういう展開がありうるかを自分に説いて聞かせ、よりよい振る舞いや対応をするよう自分を導く。

 たとえば、「次に批判されたときは、黙って耳を傾け、そのなかに肯定的、建設的な要素を見つけ出そう。相手の意見から学ぶことはできる。相手を攻撃しない。指摘してくれたことに感謝しよう」というように。

 

 信頼の置ける人物、たとえばコーチや、メンターや、友人や、妻や夫などに、自分の感情や反応を話すのも、人によっては役に立つ。

 自分がどう感じたか、そのせいでどう振る舞ったかを正直に、ありのままに話すことができれば、話す行為そのものがカタルシスをもたらしてくれる。(p135)

 

 

気分から自分の反応を振り返る作業は、確かにちょっと億劫な気がします。しかし、そのあとの、批判から感謝へ持っていくやり方は、出来る自信がありません。

 

逆に、共感した箇所は、「13 言葉で考える力を伸ばす」の章の、「知らない言葉を逃さない」というところです。

 

 

知らない言葉に出会ったら、必ず、辞書を引いて、意味や用法などを調べよう。

 知らない言葉を飛ばして、読み進めるのは簡単だ。だから新しい言葉を覚えるこのチャンスを逃したくなかったら、意識して辞書を引く必要がある。

 

(中略)語彙が増えてきたら、適切な文脈のなかで、新しく知った言葉を使ってみよう。そうすることで忘れにくくなる。

 ただ日常生活で、むずかしい抽象的な言い回しを多用するのは、よくない。気取っているように見えたり、偉ぶっているように見えたりする。ふさわしい場面で、正しい意味で使えてはじめて、語彙の豊かさはあなたの力となる。

 語彙が増えることには、知的水準の高い文章を読めるようになるという二次的な利点もある。文章の書き方についての本は多数出版されているので、自分に合ったものを見つけよう。原則としては、書くときも、話すときも、簡潔さを心がけるべきだ。とはいえ、正確な意味を伝えるために必要なら、非日常的な言葉もためらわずに使ってかまわない。(p98)

 

 

脳トレの本として使うにはあまり具体的ではないですが、読み物としては面白かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣

ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣

 

 

ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』

こんにちは、ゆまコロです。

 

ミラン・クンデラ千野栄一(訳)『存在の耐えられない軽さ』を読みました。

 

読む前から、なんだか気になるタイトルだな、と思っていました。

軽い存在ってどういうものだろう、という疑問が浮かびます。

 

舞台は冷戦下のチェコスロバキアです。プラハの春(1968年)の頃、この国がどんな様子だったのかうかがうことができます。

 

主要な登場人物はこの3名で、三角関係のお話です。

  • トマーシュ=脳外科医、プレイボーイ。
  • テレザ=カフェのウエイトレス、写真家を目指している。
  • サビーナ=自由奔放な画家。トマーシュと関係を持っていた。

 

印象的な場面はいくつかありますが、特に心に残ったのはこの二か所です。

 

Einmal ist keinmal. (一度は数のうちに入らない) ただ一度なら、全然ないことと同じである。チェコの歴史はもう一度繰り返すことはない。ヨーロッパの歴史もそうである。チェコとヨーロッパの歴史は人類の運命的未経験が描き出した二つのスケッチである。歴史も個人の人生と同じように軽い、明日はもう存在しない舞い上がる埃のような、羽のように軽い、耐えがたく軽いものなのである。 

 

ここで出てくる「軽さ」というものがタイトルの意味なのかというと、そうとも言い切れなくて、 この言葉については、他のシーンでも言及されています。

 

惹かれあってトマーシュとテレザは一緒に暮らし始めますが、トマーシュがモテモテすぎて、次第にうまくいかなくなっていきます。

 

 

「トマーシュ、あなたの人生で出会った不運はみんな私のせいなの。私のせいで、あなたはこんなところまで来てしまったの。こんな低いところに、これ以上行けない低いところに」

 

トマーシュはいった。

「気でも狂ったのかい?どんな低いところについて話しているんだい?」

 

「もしチューリッヒに残っていたら、患者の手術ができたのに」

「そして、お前は写真が撮れたね」

「その比較はよくないわ」と、テレザはいった。

 

「あなたにとって仕事はすべてよ。でも、私は何でもできるわ。私にとっては何でも同じよ。私は何も失ってないわ。あなたは何もかも失ったの」

 

「テレザ」と、トマーシュはいった。

「僕がここで幸福なことに気がつかないのかい?」

「あなたの使命は手術をすることよ」と、彼女はいった。

 

「テレザ、使命なんてばかげているよ。僕には何の使命もない。誰も使命なんてものは持ってないよ。お前が使命を持っていなくて、自分だと知って、とても気分が軽くなったよ」

 

 

テレザがトマーシュの可能性を奪ってしまった、という罪悪感にかられているのに、かみ合っていないのが切ないです。

浮気性なのに、何となく憎めないのがトマーシュの不思議な所です。

 

他に好きなシーンは、

  • 生きたまま埋められたカラスを掘り出してあげるテレザのシーン。
  • 雷鳴が鳴っている間、じゅうたんで浮気相手とトマーシュがいちゃいちゃしているシーン。
  • レーニンが死んでいくシーン。

です。

 

まだ映画は観ていないのですが、映像で観ると、きっとやきもきしてしまうのではないだろうか、と思いながら読んでいました。なのですが、物語の終盤に差し掛かる頃には、なんだか胸があたたかくなってきました。

読んだ後に、割と幸福感を覚える本でした。面白かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)

存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)