ニジタツ読書

マイペース会社員のゆるふわ書評。なるべく良いところを汲み取ろうとする、やや甘口なブックレビューです。

堤未果『沈みゆく大国 アメリカ』

おはようございます、ゆまコロです。

 

堤未果『沈みゆく大国 アメリカ』を読みました。

 

著者は米国野村證券で勤務していたジャーナリストです。

本書では、アメリカと日本の医療制度についての違いが書かれています。

 

具合が悪いと、とりあえず保険証を持って病院に行きますが、それは当たり前のことではなかったんですね。

 

 

  アメリカには日本のような「国民皆保険制度」がなく、市場原理が支配するため薬も医療費もどんどん値が上がり、一度の病気で多額の借金を抱えたり破産するケースが珍しくない。国民の三人に一人は、医療費の請求が払えないでいるという。

 

 民間保険は高いため、多くの人は安いが適用範囲が限定された「低保険」を買うか、約5000万人いる無保険者の一人となり、病気が重症化してからER(救急治療室)にかけこむ羽目になる。世界最先端の医療技術を誇りながら、アメリカでは毎年四万五000人が、適切な治療を受けられずに亡くなってゆく。

 

 

国民皆保険制度に感謝の念を抱きましたが、この後の記述にショックを受けました。

 

 

 二〇一四年四月より五%から八%に引き上げられた消費税増税で、モノが一気に値上がりしたにもかかわらず、政府はさらに10%にしようとしている。「社会保障にあてるから」と繰り返し強調されているが、ふたをあけてみると社会保障にあてられたのはわずか1割だけ、ほとんどは法人税減税分で相殺されてしまう。

 

 社会保障のためどころか、実は消費税増税で医療が大きく影響を受けることを、いったいどれだけの国民が知らされているだろう?

 

 通常の課税取引であれば、仕入れ時に支払った消費税は控除の対象となり、納税しても事業者に損得は発生しない。だが医療サービスは、非課税取引とされているため、病院は患者から消費税を受け取れないしくみになっている。

 

 利用者が窓口で支払う医療費に消費税はかからないが、医療機関が他の事業者同様、大量に仕入れる薬や医療機器などの代金、建物の建設や改修、消耗品の購入や外注費用には、すべて消費税が課税され、「仕入れ税額控除」が認められていないため、持ち出しになってしまうのだ。

 

 

税金は何に使われるのか、もっと関心を持って意見を持たなければならないなと思いました。

他の国の医療制度について知りたくなる本でした。

続編も出ているようです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

沈みゆく大国 アメリカ (集英社新書)

沈みゆく大国 アメリカ (集英社新書)

 

 

 

 

湊かなえ『告白』

おはようございます、ゆまコロです。

 

湊かなえ『告白』を読みました。

 

一つの事件を、それに関わった様々な人の視点から見ていくうちに、読者である自分も、渦中にいながらその出来事を傍観しているような気持になります。

それぞれの人物の言い分は、分かるような時もあれば、同意しかねる時もあります。

 

印象的なのは、以下の個所です。

 

 

  ほとんどの人たちは、他人から賞賛されたいという願望を少なからず持っているのではないでしょうか。しかし、良いことや、立派なことをするのは大変です。では、一番簡単な方法は何か。悪いことをした人を責めればいいのです。それでも、一番最初に糾弾する人、糾弾の先頭に立つ人は相当な勇気が必要だと思います。立ちあがるのは、自分だけかもしれないのですから。でも、糾弾した誰かに追随することはとても簡単です。自分の理念など必要なく、自分も自分も、と言っていればいいのですから。その上、良いことをしながら、日頃のストレスも発散させることができるのですから、この上ない快感を得ることができるのではないでしょうか。そして、一度その快感を覚えると、一つの裁きが終わっても、新しい快感を得たいがために、次に糾弾する相手を捜すのではないでしょうか。初めは、残虐な悪人を糾弾していても、次第に、糾弾されるべき人を無理矢理作り出そうとするのではないでしょうか。

 

 

 そうなればもう、中世ヨーロッパの魔女裁判です。愚かな凡人たちは、一番肝心なことを忘れていると思うのです。自分たちには裁く権利などない、ということを……。(p84)

 

 

 

大切に思っていても、その人の心に響くとは限らないこと、自分が思った通りの言葉を口にしても、相手がそのままの気持ちごと受け取るわけではないということなど、些細なすれ違いがリアルだと思いました。

 

読後感は爽快とは言いにくいですが、それがかえって現実っぽくていいのかもしれません。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

 

 

NHKスペシャル取材班『日本海軍400時間の証言 ―軍令部・参謀たちが語った敗戦―』

おはようございます、ゆまコロです。

 

NHKスペシャル取材班『日本海軍400時間の証言 ―軍令部・参謀たちが語った敗戦―』を読みました。

 

第二次世界大戦当時、海軍の官僚だった人が、平成元年に行われた反省会にて、「日本を戦争に持っていったことに対して、自分が悪かった、反省しなければならない」と公言していて、その姿勢が潔いなと思いました。

 

人間魚雷と呼ばれる「回天」の説明に、愕然とします。

 

 回天は四基から六基、潜水艦に搭載されて港を発進する。敵艦を発見すると潜水艦艦長から「回天戦用意」の命令が下される。潜水艦と回天の間は、専用の通路で結ばれており、搭乗員は通路のはしごを駆け上がってハッチを開けて乗り込む。整備担当の兵士が回天のハッチをしめたら、二度とそれが開かれることはない。電話だけが、潜水艦の仲間との間をつなぐ通信手段だが、潜水艦から出撃すると同時に電話の回線も引きちぎられる。

 

 そこから、敵艦までおよそ三十分間の一人旅が始まる。

 

 敵艦に間違いなく体当たりするには、出撃当初に示された敵艦の位置や角度、自らの速度などから類推して方向を定めるしかない。潜望鏡は取り付けられているが、長さが1.25メートルしかないため、水面近くに浮上する必要がある。このため、潜望鏡を上げるのは敵艦からの探知を招く危険行為とされていた。頼りとなるのは唯一、ストップウォッチのような時計のみ。回天に乗り込んだ兵士は、「あと何分何秒で敵艦に当たるはずだ」と自らの計算を信じて操作を行う。

 

 兵士がじっと見つめる時計の針は、自身の命の残り時間をも示しているのである。

 

 軍令部が開発した兵器「回天」とは、そういう兵器であった。 

 

もう一つ、日本海軍が航空基地を作るために上陸した中国南部の島・三灶島(さんそうとう)での、住民の証言が痛ましく、読んでいてなかなか先に進めませんでした。

この記述については、scopedog 様のブログについて詳しく書かれていますので、ここでは割愛します。

 

scopedog.hatenablog.com

 

今の時代をもたらしてくれた人たちに感謝するとともに、平和な毎日が続くことを願うばかりです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

 

平井正修『花のように、生きる。 美しく咲き、香り、実るための禅の教え』

おはようございます、ゆまコロです。

 

平井正修『花のように、生きる。 美しく咲き、香り、実るための禅の教え』を読みました。

 

素敵な格言が多く、勉強になります。

心に残った話は、以下の二つです。

 

●詐欺に引っかかるのは、欲があるから。

 

 親心は心情としてわかります。しかし、金を落としたことが会社にばれないように解決してしまおう、交通事故が公にならないようにこっそり示談にしてしまおう、というのは、やはり欲です。そこには、会社にばれたら、事故が公になったら「損」、そうならないことが「得」という損得勘定が働いています。親にとったら、子どものためという純粋な思いだとしても、そんなことを求めてくるような人物を認めてはいけないのです。

 

 霊感商法だって、いまより幸せになれる、裕福になれる、といった「得」のために大金を投じるわけでしょう。 

 

もう一つは、「不落因果(ふらくいんが)、不昧因果(ふまいいんが)」という言葉についての話です。不落因果、不昧因果とは、因果に落ちまいと考えてはいけない、因果をくらまさない、ごまかさないことが大切だという禅語なのだそうです。

 

どうしてごまかしてはいけないのか、それは、思ってはいけないと考えたら、余計それにとらわれることになるので、湧き上がる感情はごまかさないでいったん受け入れてから、自然のうちに手放していけばよい、と筆者は言っています。

 

●妬みや嫉みは、「思ってはいけない」のではなく、思ったらすぐ手放せばいい。

 

 自然に湧き上がってくるのなら、思ったらいいじゃないですか。それは心にまかせて、あとは手放せばいい。水面に石を投げ込めば、波紋が立ちますが、放っておけば波紋はしだいにおさまって、もとの静かな水面に戻ります。波紋を鎮めようとして手を入れたりすれば、新たな波紋ができるだけです。これと同じ。執着せずに、「まかせて、手放す」とは、そういうことです。 

 

著者は臨済宗のお寺の住職なのですが、時々大リーグの話が出てくるので、読んでいてあれっ?という感じになります。でも親しみがわいてきてなかなか良かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

 

山口つばさ『ブルーピリオド 1』

おはようございます、ゆまコロです。

 

山口つばさ『ブルーピリオド 1』を読みました。

 

ずっと気になっていたのですが、やっと手に取りました。

成績優秀な男子高校生が美大受験を目指す話です。

 

とても面白くてうまく感想が言えないので、好きな箇所だけ拾ってみます。

 

 好きなものを好きっていうのって

怖いんだな…

(矢口八虎。本作の主人公、高2。)

朝の 渋谷の街が好きだ、という気持ちを、友達にうまく伝えられない主人公の心の中の言葉です。好きと言う気持ちはどこからやってくるんだろう、と時々考えます。

 

下は、 サッカー日本代表の試合を観ている時の主人公の気持ち。騒ぎながら、自分の頭の中で、もう一人の声が聞こえます。

 

この感動は誰のものだ?

なんでこんなに大声出してんの?

他人の努力の結果で酒飲むなよ

お前のことじゃないだろ 

(矢口八虎)

 

「遊びも勉強も手を抜かずにやってきたのになに一つ 実感が得られなくて」

こういう気持ちの中で、好きなことが見つかる喜びはとてつもなく大きいものだと思います。

 

好きなことに人生の一番大きなウエイトを置くのって普通のことじゃないでしょうか?

(美術の先生) 

 「食べていける保証がないなら 美大に行くメリットってなんですか?」と先生に聞く主人公。この、美術の先生との会話が好きです。

この学校の美術部はなかなか厳しそうですが、ある時から、生きてる実感を持ち始めた主人公が、部活の課題に食らいついていく姿が素敵です。

 

なぜ、自分は好きなことを一生懸命していないんだろう?と不思議になるくらい、動き出したくなるマンガでした。

 

絵を描く人、絵を見るのが好きな人は特に気持ちがよく分かると思います。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)

 

 

浅田次郎『日本の「運命」について語ろう』

おはようございます、ゆまコロです。

 

浅田次郎『日本の「運命」について語ろう』を読みました。

 

歴史小説に苦手意識がある、と言ったら、母がおすすめしてくれた本です。

この150年くらいの間で日本がどのように変わったか、ということと、「なぜ歴史を学ぶのか?」という疑問に対する著者なりの答えが、浅田先生の講演会の記録としてまとめてあります。

 

議事録のような語り口なので、最後までたどり着けるか心配でしたが、歴史の先生の楽しい脱線のような豆知識が満載で面白かったです。

 

好きなのは、伊能忠敬のお家のお話です。

 

 

 読者の方の中には「ウチの兄貴より私のほうが絶対に出来がいい」と思っている方がいらっしゃると思います。長男が必ずしも優れているわけではないのに、暗黙のうちに、家を継ぐのは長男と決まっている。日本の伝統、というより、実はこれは農耕民族の伝統です。

 

 つまり農耕民族にとっては強力なリーダーシップだとか、ずば抜けた能力などはあまり必要ない。それよりも一族にとって怖いのは、田畑をめぐる相続の揉(も)め事でしょう。

 

 相続人を長男と決めておけば揉め事を避けられる。農耕民族は「地域の中で協力してうまくやっていく」ことが大事なので、突出したリーダーシップは必要ないのです。農耕民族にとっては、長男相続がいちばん適しているようです。

 

 日本でも地域的には長子相続という場所もあります。男女にかかわらず、先に生まれた者が相続する。だから女子でも相続権をもつという地域があるんです。実はこれがいいんですよ。長女に婿をもらうとなると、親が有能な人間を選ぶことができます。これはいちばん手堅い相続のような気がしますが、どうでしょうか。

 

 長子相続の例で有名なのは、伊能忠敬(いのうただたか)です。江戸時代、日本で初めて実測による全国の正確な地図を作った人ですね。

 

 彼が生まれた千葉県・九十九里のあたりは長子相続でしたから、長女が忠敬を婿に取って相続し、彼は伊能家を継ぎました。伊能家は現在の香取市佐原で酒や醬油を作っていましたが、当時は家勢が衰退していて、有能な忠敬に期待をかけたわけです。

 

 その期待に違わず、忠敬は家業を伸ばし名主になります。そして数え五十歳で隠居して、自分の好きな天文学や測量の道に邁進(まいしん)するわけです。

 

 こうした例もありますが、日本は基本的に長男が相続します。(P132)

 

 

他にも、東京と大阪の文化土壌が違う理由や、北町奉行所と南町奉行所の勤務体制など、ちょっと前に決められたことが現在も踏襲されていることが分かり、興味深かったです。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

 

キスリング展に行ってきました。

おはようございます、ゆまコロです。

 

東京都・目黒区の庭園美術館で開催中のキスリング展に行ってきました。

 

モイズ・キスリング(1891-1953)はエコール・ド・パリ(パリ派)の画家でポーランドの人です。

 

 

キスリングは、20代後半には画家として成功し、パリ派の陽気で面倒見の良いリーダーだった。「モンパルナスの帝王」とも呼ばれた。自殺したパスキン、アルコール中毒モディリアーニユトリロなど破滅型のイメージの強いエコール・ド・パリの画家たちの中では珍しく幸福な生涯を送った画家である。(ウィキペディアより)

 

 

静物画、人物画、風景画と、彼のいろんな作品が来日しているのですが、どれも印象が違う絵が多く、面白かったです。

憂いのある表情で、物静かな印象を受けるものが多い人物画に対し、植物を描いたものは生命力にあふれていて、絵の具の盛りも厚い作品が多かったです。

今回の展示作品の一つ、《カーテンの前の花束》1937年(展覧会ホームページでも閲覧できます)などからは、花が動きだしそうなエネルギーが伝わってきます。一緒に描かれているカーテンの柄も凄いです。

 

ユダヤ人であるキスリングは、第一次世界大戦ではフランスで外国人部隊に所属して負傷し、第二次世界大戦ではアメリカに亡命しています。

絵に描かれているサインが「Kisling」とファミリーネームだけなのは、ユダヤ人であることを伏せるため、と展示にあり、彼の生きた時代の大変さが垣間見えるようでした。

 

www.teien-art-museum.ne.jp

 

ウィキペディアに「面倒見が良いリーダー」とあり、周りの人とうまくやっていくことが上手だったのかな、と思いました。

 

戦争のない国で今生活できていることに、感謝の念を抱かざるをえません。

東京都庭園美術館(東京・目黒)にて開催中~2019年7月7日(日)まで。

 

最後まで読んで下さってありがとうございました。